クマラスワミ報告

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クマラスワミ報告

スリランカのラディカ・クマラスワミ(Radhika Coomara-swamy)氏が1996年1月4日付で国連人権委員会に提出した報告書。女性に対する暴力に関する報告書本体および二つの附属書からなる。第一の附属文書が従軍慰安婦問題を扱った報告書『戦時における軍事的性奴隷制問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への訪問調査に基づく報告書』。第二の附属文書が家庭内暴力の法的側面を扱った文書。

クマラスワミ報告 第一附属文書 全文へのリンク

http://space.geocities.jp/japanwarres/center/library/cwara.HTM

解説 【荒井信一】

太字強調は引用者。

1994年の国連人権委員会は、スリランカのラディカ・クマラスワミ(Radhika Coomara-swamy)氏を「女性への暴力に関する特別報告者」に任命した。同氏は南アジアにおける民族的な迫害をはじめとするアジアにおける女性と法律の問題についての優れた研究で有名な法律家である。

人権委員会が女性にたいする暴力の問題を取り上げた直接の背景としては、冷戦構造のもとでのさまざまな人権抑圧が表面化したことと、開発が急速に進行した発展途上国(地域)において直接的な、あるいは社会的な女性にたいする人権侵害が頻発し、明かるみに出されたこと、昨年の国連世界女性会議に結集したような女性の抑圧からの解放と地位向上を求める運動が世界的に高まったこと等をあげることができる。しかしとくに重要であったのは、旧ユーゴスラヴィアにおける内戦の過程で行われた「民族浄化」を名目とする女性にたいする強姦や強制妊娠などと、第二次世界大戦中に日本軍により組織的に行われた「従軍慰安婦」にたいする被害回復の問題が急速に表面化したことであった。

旧ユーゴの問題については、国連安保理事会がこれを人道にたいする罪と認定し、すでに1993年5月25日の安保理事会決議(827号)で違反責任者の訴追のための国際裁判所規定を採択し、我が国でも同年10月8日外務省告示485号として公布されている。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの内戦の沈静化にともない同裁判所の活動が本格化しつつある模様は、日々の新聞などで報じられている通りである。裁判所規定では、人道にたいする罪として文民にたいして直接行われた九つの犯罪をあげているが、そのうちには奴隷の状態に置くこと、拘禁、強姦が含まれている。民間人にたいする国際人道法違反の行為(戦争犯罪)としては、これらが「慰安婦」の場合にも共通するものであることはいうまでもない。

クマラスワミ氏は1995年に提出した予備報告書で、「慰安婦」問題について「第二次大戦後約50年が経過した。しかしこの問題は過去の問題ではなく、今日の問題とみなされるべきである。それは武力紛争時の組織的強姦及び性的奴隷制を犯したものの訴追のために、国際レベルで法的先例を確立するであろう決定的な問題である。象徴的行為としての賠償は、武力紛争時に犯された暴力の被害女性のために補償による救済への途を開くであろう」と書いた。明らかに旧ユーゴと戦時の日本における二つの問題の関連を強く意識し、人権を基礎とする平和秩序をいかにつくりあげてゆくかという今日的観点からその解決を探ろうとする意欲を示したのであった。

ここに訳出する最終報告書は、クマラスワミ氏が1996年1月4日付で人権委員会に提出したものであるが、上に述べたような観点は一層鮮明に貫かれているように思える。それは報告書のなかで「勧告は…グローバルなレベルで女性にたいする暴力の克服を目指すもっと一般的な性格のものになるかもしれない」と記している点にも現れている(45パラグラフ)。またこれまで「慰安婦」問題について引き合いに出されることのすくなかった戦時における文民の保護に関する 1949年8月12日のジュネーブ条約(第四条約)に、とくに注意を払っていることも重要であろう(96、98パラグラフ)。

この報告書には「戦時における軍事的性奴隷制問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への訪問調査に基づく報告書」というサブタイトルがついている。クマラスワミ氏の三国訪問(予定されたピョンヤン訪問は実現しなかった)は、1995年7月に行われた。氏は調査に際し心掛けたことの一つが、元「慰安婦」の要求を明確にすることにあったとし(46パラグラフ)、また被害女性たちが国際社会と日本政府の耳に届くことを期待している具体的要求を問題解決に詳細に反映させようと考えたと述べている(61パラグラフ)。これらの言葉は、日本政府の提案した「女性のためのアジア平和国民基金」(クマラスワミ氏が調査した当時は「友好基金」と仮称されており、報告書にもその名前で登場する)との関連で書かれたものであるが、報告書のもう一つの重要な観点――被害者からの視点を物語っているように思える。

報告書は一つの章を、被害女性たちの生の証言の要約に当てている。クマラスワミ氏は証言を聞いたことの重要性について、「そのことによって当時一般的であった状況のイメージを作り上げることが可能となった」としている(53パラグラフ)。

証言が50年以上の時間的距離を経た人間の記憶を通じての過去の再現であること、しかも思い出したくない過去に起因する心の傷が現在でも証言者の心を強く動かしていることなどを考えると、証言が過去そのままの再現となることは考えにくい。それはすでに当初から心に受けた印象の強弱に従い、はっきりと焼き付けられた部分もあれば、脱落したり曖昧になった部分もあったはずである。また長い記憶の歴史のなかで混乱や混同を経験し、変形されてもいよう。この変形 ――一種のデフォルメは事実そのものを表していないが、しかしそれは現在にいたるまで持続的に被害を受け続けてきた被害者たちの生(せい)の真実を、むしろリアルに表現するものである。被害者たちの心に映じかつ残っているイメージにより、我々は、被害者をかつて苦しめまた現在までも苦しめている軍事的性奴隷制の真実に初めて接近できるのである。問題が被害者たちの被害回復であるとすれば、やはり被害者たちの認識を決定し、要求の基礎となっている彼女たちの心の真実から出発する以外にはないのである。クマラスワミ氏が「当時一般的であった状況のイメージを作り上げることが可能となった」と述べているのは、おそらくこのような意味であって、被害者からの視点を重く見る姿勢がここにも示されているように思う。

しかしイメージは、被害者からみた歴史の真実を物語るものであっても、そのままでは本来何がおこったかを明らかにするためには不十分であることはいうまでもない。証言にしても、それを歴史の資料として活用するためには文書資料との付き合わせや、厳密な吟味、批判や証言者との再対話などの手続きによって事実を確定する努力が必要である。とくに日本政府による公文書の公開が不十分である現状では、「慰安婦」問題の実態を裏付けることが困難であることは報告書で指摘されている通りである(43パラグラフ)。被害回復のための前提としてわれわれが被害者の心の真実から出発して真相――とくに加害と被害の実態を解明することが何よりも必要であろうが、それはむしろ本報告書によって日本の政府や国会に課せられた課題とすべきであろう。

本報告書のメリットは、国連としての最初の公式調査の結果に基づき、被害者の立場を尊重しつつ軍事的性奴隷(「慰安婦」)問題の解決方法について勧告をおこなった点にある。各国政府からの事情聴取以外に事実調査も、そのような立場から被害者の聞き取りを中心に行われた。その結果得られた「一般的なイメージ」が「歴史的背景」の章にまとめられていると思われるが、率直にいって確実に事実誤認と思われる箇所がいくつかある。その訂正は早急にクマラスワミ氏によっておこなわれるものと期待しているが、その主な部分は本訳書に訳注として示してある(ただし明白な誤りについては、断りなく訂正した)。誤りの主な原因については、本資料センターの吉見義明氏が次のように指摘している。

「誤りの原因について述べますと、George Hicks,The Comfort Womenに依拠した点が問題です。この本は、誤りの大変多い著書ですので、notesから削除したほうがいいと思います。Hicks氏の誤りの一例をあげると、彼は吉田清治氏の経歴を、Tokyo University卒で、のちWar Ministry administrative officerになったと記しています(28ページ)。しかし、実際には、彼は東大卒ではなく、東京にある大学を卒業したものです(吉田の本による)。また、かれはadministrative officerではなく、上海派遣軍の下級の嘱託part-time emproyeeに過ぎません。またHicks氏が引用している吉田氏の著書の「慰安婦」徴集の部分は、多くの疑問が出されているにもかかわらず、吉田氏は反論していません。…吉田氏が反論することは困難だと思われます。吉田氏の本に依拠しなくても、強制の事実は証明することができる(誰が強制したかを別にすれば、日本政府も徴集時や慰安所での強制を認めている)ので、吉田氏に関連する部分は必ず削除することをお勧めします」(クマラスワミ氏宛の書簡)。

最後に、「第二次世界大戦」という用語について触れておく。大戦の終結が1945年であることには異論はないが、大戦がいつ始まったかについては幾つかの考え方がある。ヨーロッパではドイツがポーランドを攻撃した1939年を始期とするのが定説であるが、アジアでは「満州事変」の始まった1931年、日中戦争が全面化した1937年、アジアとヨーロッパの戦争が拡大し一体化した1941年などがそれぞれ始期として主張されている。本報告書では1941年以後を指していると思われるが、大戦の起源として中国侵略を重く見る立場から1931年を始期とする考え方も十分成り立つし、この報告書でも1932年から記述をはじめている。さらにニュールンベルク裁判(1945~46年)で実体化される人道にたいする罪は、戦争前にさかのぼって非人道的な戦争犯罪をとらえているので、なおさら形式的な大戦の始期にこだわる必要はない。

いうまでもなくこの報告書の核心部分は、最後の勧告のところにある。その冒頭で、日本政府が国際法違反の法的責任を受け入れることを求めている。日本政府は平和国民基金等で道徳的責任を果たしつつあると主張しているが、その点に一定の評価をあたえながらも、この報告の根底には、法的責任を果たさなければ道徳的責任も果たしたことにならないという考え方があるように思われる。かつて来日した国際法律家委員会(ICJ)のドルゴポール氏はそのことを簡潔に、法的責任を認めずに道徳的責任を果たそうとすることは不道徳なことになると評した。日本政府が一刻も早くこの勧告を受け入れ、国際社会の信頼される一員となる途を選ぶことを強く要望したい。

(荒井信一)

クマラスワミ報告 目次

数字凡例:パラグラフー頁

  • 序文 1-51
  • 定義 6-103
  • 歴史的背景 11-444
    • A.概観 11-224
    • B.徴集 23-317
    • C.「慰安所」における状態 32-449
  • 特別報告者の作業方法と活動 45-5113
  • 証言 52-6515
  • 朝鮮民主主義人民共和国政府の立場 66-7621
  • 大韓民国政府の立場 77-9024
  • 日本政府の立場――法的責任 91-12427
  • 日本政府の立場――道義的責任 125-13535
  • 勧告 136-14039
    • A.国家レベルで 13739
    • B.国際的レベルで 138-14040
  • 原注・訳注 41
  • 別表:特別報告者が訪問調査に際して協議した主要人物・組織のリスト(略)

英文(国連人権理事会サイト)

Report of the Special Rapporteur on violence against women,its causes and consequences, Ms. Radhika Coomaraswamy, in accordance with Commission on Human Rights resolution 1994/45

Report on the mission to the Democratic People's Republic of Korea, the Republic of Korea and Japan on the issue of military sexual slavery in wartime

文書番号: E/CN.4/1996/53/Add.1

http://www.unhchr.ch/Huridocda/Huridoca.nsf/TestFrame/b6ad5f3990967f3e802566d600575fcb?Opendocument


参考1 国連におけるクマラスワミ報告書の評価

http://homepage3.nifty.com/m_and_y/genron/hatsugen/ianfu-coomaraswamy.htm

「teke note」の含意についての意図的?誤解への反論

平易な英文なので解釈を間違えようもないんですが、明らかにクマラスワミ氏の活動全体(当然慰安婦に関するものをも含む)を歓迎し、彼女の報告内容すべてに対して一括して「留意」を示しています。[1]

(E/CN.4/1996/53が報告書「家庭内暴力」、Add.1が追加文書「軍事的性奴隷制問題」、Add.2が「家庭内暴力に関する立法」)

また、国連では「留意(note / take note)」というのは注意を喚起する目的でごく一般的に用いられる表現で、否定的/消極的意味はまったくありません[2]。現にクマラスワミ報告書自身も、他の報告書や条約等を主張の根拠として参照する際にこの表現を繰り返し用いています[3]。

(高橋(亨))

海老蔵さんもたしかなんか言ってましたね。

"take note"に関する議論は日本の国会でも行われている。→ 参考3

参考3 決議の現場での日本政府のロビー活動

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/136/1080/13605071080007c.html

第136回国会 法務委員会 第7号

平成八年五月七日(火曜日)

午後一時開

○ 本岡昭次君 大変不満であります。だけれども、その今の大臣の答弁に私がいろいろ具体的提案をしてそれにまた答弁をいただくということをやっておりますと、肝心の国連人権委員会の問題の質疑ができませんので、今の御答弁には不満であるということを申し上げ、改めて時間を設けていただいて議論をさせていただきます。

 それでは、国連人権委員会の問題についてお伺いします。

 三月十八日から第五十二回国連人権委員会が開かれました。私も、一週間国会を休ませていただいて、これに参加してきました。そして、そこでは、旧日本軍が戦争中に行った慰安婦問題これに対する審議が行われました。この慰安婦問題は、人権委員会で軍事的性奴隷というふうに位置づけられて、そして日本の法的責任が厳しくそこで求められるということになり、クマラスワミ女史の報告も決議として採択されるようになりました。その採択は四月十九日に行われて、この外務省の仮訳によりますと、この女性に対する暴力、その原因と結果に関する特別報告者の作業を歓迎し、報告をテークノートするということで、無投票でコンセンサス採択されたということになっております。

 この無投票でコンセンサス採択と言っておりますが、このクマラスワミ報告は全会一致で採択されたと。日本も反対しなかったということは、賛成したというふうに理解してよろしいですか。

○説明員(川田司君) お答えいたします。

 先生ただいまの御指摘の決議は、いわゆる女性に対する暴力撤廃に関する決議であると考えておりますけれども、この決議は家庭内暴力など今日の社会においていわゆる緊急の課題となっている女性に対する暴力の撤廃に関するものでございまして、いわゆる従軍慰安婦問題についての決議ではございません。このような女性に対する暴力の問題、我が国も大変重要な問題と考えておりまして、この決議に賛成いたした次第です、といいますか、コンセンサス採択に参加したというのが事実でございます。

○本岡昭次君 それであるならば、なぜ事前に、女性に対する暴力に関する特別報告者により提出された報告の追加文書Ⅰ、アドⅠについて日本政府の見解なるものをわざわざ関係諸国に配付して、この従軍慰安婦問題について日本政府の立場を説明して、それが拒否されるようになぜ各国に求めたんですか。この文書の存在をあなたは認めますか。なぜこういうものを事前にそれじゃ配らなければならなかったんですか。それで、この文書認めますか。

○説明員(川田司君) 先生御指摘の点でございますけれども、先生の最初の御質問にありましたように、クマラスワミ報告者の報告書というのが出ているわけでございます。

 報告書は、報告書本体というのがございまして、これは女性に対する暴力に関する報告書でございます。それと附属書が二つついておりまして、附属書の第一の附属文書といいますのがこのいわゆる従軍慰安婦問題を扱った報告書でございます。それから、第二の附属文書と申しますのがいわゆる家庭内暴力の法的側面を扱った文書でございます。

 先ほど私が申し上げました女性に対する暴力撤廃に関する決議におきましては、この報告書全体をテークノートするという形で、いわば報告書、従軍慰安婦関係も含めた報告書全体が言及されているという形でございます。ただ、これはあくまでもテークノートということでございまして、一般的には記録にとどめるとか記録するとかあるいは留意するというふうに訳されている言葉でございます。

○本岡昭次君 私の質問に答えてください。わざわざ日本政府は、この女性の暴力に関する議論の中に、附属書の一ですね、アドーの従軍慰安婦問題についてクマラスワミさんが述べている事柄に対して徹底的に反対していますね。大変な言葉でもって反対しておりますね。なぜここまでやらなければならなかったんですか。女性に対する暴力全般ならもっと素直に臨めばいいじゃないですか。

 この文書の存在を認めますね、幻の文書、国連で配付直前に日本政府が撤回をして、そして別の文書を出し直したといういわくつきの文書。この存在を認めますね、まず。

○ 説明員(川田司君) 先生が今お持ちの文書がどの文書か定かでありませんけれども、一つは、我が国政府として我が国の立場を説明した文書を国連文書として人権委員会の場で配付いたしました。それから、それとは別に、各国ベースに対して我が国の立場をきちんと述べるという意味で二国間ベースで使った文書というのもございます。

○本岡昭次君 それじゃ、この文書の存在認めますね。認めますって言いなさい。

○説明員(川田司君) ちょっとよく見えないんですけれども、その文書が最初二国間ベースで使った文書でありますなら、その文書は確かに存在いたします。先生もお持ちですから。

○本岡昭次君 いや、あなたに見せると、だれからどこから入手したかということを調べて、またその出した人をあなた方は厳しい目に遭わせるからやめます。

 そこで、この文書を私は日本語に訳された文を読んだんですが、これは大変なんですよ。このクマラスワミ報告を拒否せよ拒否せよというのが三回も書いてあって、特に私は唖然としたのは、「実際には特別報告者の議論は恣意的で根拠のない国際法の「解釈」にもとずく政治的発言である。」と書いてある。「国際社会がこのような議論を受け入れるならば、国際社会における法の支配にたいする重大な侵害となるであろう。」、どういうことですか。ここまで書かにゃいけなかったんですか。そして、結論として、「そこで人権委員会が、事実の不正確な記述と国際法の間違った解釈に基づく「法的」議論を提起しているこの追加文書を拒否し、また「慰安婦」問題と女性にたいする暴力一般の問題について日本がとった行動を適切に認めることを繰り返し強く希望する。」という文書を事前に配付したんですよ。そして、国連に配付した文書は全然そういうところがない。全部削除されてしまって、国民基金でやりますからどうぞ日本を認めてくださいというような文書になってくるわけなんですね。

 それで、そうすると日本政府は、ここに書いてあるように、クマラスワミ女史が一応調査をしてそして公式に人権委員会に出した、附属文書であっても公式の文書ですね、その文書を政治的発言というふうに決めつけて、そしてこれを受け入れたら「国際社会における法の支配にたいする重大な侵害となるであろう。」と言ったんですよ。それで、これが留意であろうと何であろうと、テークノートという言葉の解釈は私もいろいろ調べましたから後でやりますけれども、一応それは記録にするにしろ留意するにしろどんな言葉にしろ、消すことのできないものとして国連の中に残ったわけでしょう。そのことに対して日本が今言いましたように議論を展開したという、このことは消せないでしょう、これ。何カ国にもお渡しになったんですよ、二国間というけれども、こんな文書を。これ責任は重大ですよ。私の言っていることに間違いありますか。

○説明員(川田司君) 日本政府の立場でございますけれども、二月六日に官房長官が明らかにしておりますが、いわゆる従軍慰安婦問題に関するクマラスワミ特別報告者の報告書第一附属文書の法的に受け入れられる余地はないという考えに基づきまして、そのような立場で人権委員会に臨んだわけでございます。先生お持ちの資料につきましても、基本的にはそういった考え方に立って作成した文書でございます。

○本岡昭次君 そうすると、国連は国際社会における法の支配に対する重大な侵害になるものを採択したんですか、みんなで。だから、日本政府はその直前までアドI、附属文書の一、従軍慰安婦問題が書かれてあることの削除を徹底して三日間求めてあなたも頑張ったんでしょうが、抵抗したんでしょう。だけれども、国際社会の中に受け入れられることなく、アドIもアドⅡも一つの文書としてクマラスワミ報告は、コンセンサス採択にしろ何にしろそれは支持されたことになったわけじゃないですか。

 そうすると、国連は、何ですか、人権委員会はこのクマラスワミさんの政治的発言を受け入れて、そして法の支配に対する重大な侵害とまで日本が言い切ったものを受け入れたという、この関係はどうなるんですか。日本はこれからどうするんですか、これ。国連の人権委員会から脱退するんですか。

○説明員(川田司君) お答えいたします。

 クマラスワミのいわゆる第一附属文書が採択されたということでございますけれども、それは先ほどから申し上げますとおり、この報告書はテークノートされたにすぎないわけでございます。

 私どもの考えとしましては、このテークノートといいますのは、記録にとどめるとか記録するとか留意するとかいうことでございまして、いわば評価を含まない中立的な表現でございます。したがって、採択されたというのは必ずしも適当ではないと思います。

○ 本岡昭次君 それではお聞きしますが、過去の日本が国際社会の中でいろいろな条約を結び、また共同宣言をし、共同声明をなした中にこのテークノートというのはしばしば使われているでしょう。これを日本語に外務省はどう訳してきましたか、今まで。テークノートというのをどう訳してきましたか、留意と訳してきましたか。

○説明員(川田司君) 先ほど来述べておりますけれども、一般的には記録にとどめる、記録する、留意するといった訳語が使われております。

○ 本岡昭次君 そんなことありませんよ。テークノートという言葉を訳しているのを見ると、この一つだけ例を取り上げますと、一九七四年十二月九日の国連総会決議で盛んにこのテークノートという言葉が使われているんです。これは全部、注目する、注目する、注目して何々をする、その報告を注目してどうする、その決議を注目してどうするという、そういう言葉なんですよ、注目する。

 それで、その留意というふうにあなた方が無理やり訳すけれども、しかし、今まで留意と訳したのは皆、マインドフルザットとか、ハビングインマインドとかいう言葉を皆留意と訳していますよ。見てみなさいよ、私、これずっと調べたんです。これは見せてもいいですよ、秘密じゃないからね。

 だから、あなた方が好き勝手にいろんな、時には、評価を伴わない単なる言葉ですと言い、あるところでは注目しとして、注目するという言葉はこれはどうですか、無視できない言葉でしょう、注目するという。そうでしょう。留意だって、字引引いてみなさいよ。心にとめ置くとかいろんな、あなた、それなりの意味を持っているじゃないですか。

 だからあなたは、外務省は、テークノートするだから大して意味がないんだという態度を、これからもこの人権委員会を中心とする国際社会の中でこの附属文書を見ていかれるのですか。それで、その注目すると今までずっと訳してきた、今回はこれは注目するとは訳さないんですか、テークノート。

○ 説明員(川田司君) 先生御指摘の総会決議、注目すると訳されたのは、外務省でそう訳したのかどうかわかりませんけれども、一般にはテークノート、記録する。確かに、注目するという訳もあるかもしれません。ただ、ここでテークノートするという本来の意味はどういう意味かといいますと、通常、こういった特別報告者の報告書というのは歓迎されるとかいう言葉を使われるのが通常であるわけですけれども、何らかの問題があるといったような場合に、よくテークノートという言葉を使うわけでございます。

 したがいまして、今回の決議につきましても、そういった趣旨でテークノートという言葉が使われている。我々としてはこれにつきましては、評価を含んでいない極めて中立的な言葉であるというふうに理解しているわけでございます。

○本岡昭次君 それは国際社会の中で通用するんですか、今のあなたの解釈が。

○説明員(川田司君) 実はこの決議案、私が交渉に参加したんですけれども、交渉参加当事国の間でのそういった理解に基づいたテークノートという言葉が使われたものだと理解しております。

○ 本岡昭次君 しかし、先ほど言ったように、拒否すべきものであると言い、そして先ほど私が何回も引用しましたように、国際社会における法の支配に対する重大な侵害であるから削除しなさい削除しなさいと言っても削除できなかった。それで、審議もするなと言って求めたけれども、審議は行われた。韓国、中国初め十カ国から、またNGOも二十数カ国がこれを歓迎した。日本のこの立場を支持した国は一国もなかった、全く日本は国連人権外交において孤立化したというこの事実は認めますか。

○説明員(川田司君) 先ほど来申し上げていますけれども、クマラスワミ特別報告者の報告書といいますのは、家庭内暴力を扱った報告書本体、それから第二附属文書、それからいわゆる従軍慰安婦問題を扱った第一附属文書から成るわけでございます。

 この件につきましては、人権委員会におきましていわゆる女性に対する暴力撤廃に関する本会議の審議において議論されたわけですけれども、私どもの承知する限り、いわゆる従軍慰安婦問題ないしこれを扱いましたこの報告書第一附属文書に言及した国は、我が国のほかは、韓国、中国、フィリピン及び北朝鮮の四カ国であったと理解しております。また、このうち特にフィリピンは我が国の取り組みを評価する発言をしたわけです。また、この問題に何らかの形で言及したNGOは、本会議で発言したNGOというものは全部で五十四団体あったわけですけれども、このうち約十団体であったと理解しております。

 女性に対する暴力に関する討議の焦点は、報告書本体及び第二附属文書にある家庭内暴力の問題、あるいはまたセクハラ等社会における女性に対する暴力の問題といった現代社会の直面する問題であったというふうに承知いたしております。

○本岡昭次君 どうも皆すれ違って時間がもったいない。

 それで、最後にあなたに一点お伺いします。

 そうすると、配付直前に撤回した、幻の文書になっておるんですが、この資料、これが最後に撤回されて別のその文書が出された、ごく穏やかなものが、重大に留保しますという言葉で。なぜこの最初に出した文書をきちっと国連に正式の文書として、印刷直前までやって、私の聞くところでは、アラビア語の訳までできておったけれども、だめだと引き取って別のものを出したと。なぜそこまでしなければならなかったんですか。

○説明員(川田司君) 先生お持ちの資料は、基本的には二国間の話し合いといいますか、二国間で我が国の立場を説明する際に使う資料として作成したものでございます。ただ、国連人権委員会の場におきましては、こういった大部の資料を配付するのは必ずしも適当でないということで、もっとわかりやすい文書ということで簡単な文書を作成したわけです。

 ですけれども、この国連人権委員会で配付した文書も、基本的にはその最初の文書と内容的には同じものである、基本的には簡単にしたものであるというふうに理解いたしております。

○ 本岡昭次君 いや、そうはなっていないじゃないですか。最後は重大に留保するという言い方、片一方は拒否する拒否する拒否するということでもって審議さえさせないというふうな立場での臨み方が、何で最後重大な留保ということなんです。やっぱり国際社会の中で日本も、こういう文書を出すとこれは大変なことだということであなた方はやわらかい文書に書き直したんでしょう。そこは認めなさいよ、はっきりと。

○説明員(川田司君) 国連文書として配付した文書の中でも、そのクマラスワミ特別報告者の法的議論については我が国として受け入れられないということを述べておりまして、基本的には同じ内容でございます。

○本岡昭次君 そうしたら、あなたは最後まで、今でもこのクマラスワミのアドIの附属文書、日本の従軍慰安婦問題の書いてあるところは、恣意的で根拠のない国際法の解釈に基づく政治的発言、国際社会がこんな議論を受け入れたら国際社会における法の支配に対する重大な侵害になると、今もあなたはそう思っていますか。

○説明員(川田司君) はい、基本的にはそのように考えております。

○本岡昭次君 これ、また改めて別のときに。

 最後に、ちょっと国民基金、せっかくおいでやから一問だけ。

 国民基金、今いろいろざわついておりますね。せっかくなってもらった偉い人がやめるややめぬじゃ言って、あるいはまた金を渡そうと思うけれども、金が集まっていないんでどうしようやと。そこで二つ尋ねます。

 金が予定どおり集まらなかったときは政府からお金を出してもらうんや、こう言っていますね。それで政府は、国は出すんですか。国民から募金している金で予定額が集まらなければ、その差額は国の予算から出すんですか。

 それと、内閣総理大臣に署名入りでその謝罪文を書いてもらうということを言っておりますが、橋本総理が書けるんですか。国民基金のお金を渡すときに、民間団体がお金を渡すときに一国の総理大臣がそれに対して謝罪文書けるんですか。この二ついかがですか。

○説明員(東良信君) 御説明申し上げます。

 ただいま先生が御指摘ございましたとおり、国としてお金が出せるかということにつきましては、やはり我々といたしましては、さきの大戦にかかわる賠償問題等々につきましてはいわゆる国際法上整理をしているというふうに考えておりますので、そういうお金は出せないというふうに考えております。

 それから、二点目におっしゃいましたことでございますけれども、政府といたしましては、昨年の六月十四日に当時の五十嵐官房長官が、元従軍慰安婦の方々に国民的償いをあらわす事業を実施する折に、元従軍慰安婦の方々に対して国として率直な反省とおわびの気持ちを表明するという形でお話をしてございます。現在、そういう形で検討を進めているということでございます。

○本岡昭次君 時間が来ましたから、もっとやりたいんですが、また改めて。