慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯、など RSSフィード
 

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5noharranoharra   4  Re:高橋源一郎の慰安婦論

(論壇時評)戦争と慰安婦 想像する、遠く及ばなくとも 作家・高橋源一郎

の原文はこちらですね。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S11320312.html

 戦後、「慰安婦問題」が大きく取り上げられるようになって、古山は「セミの追憶」という短編を書いた〈7〉。「正義の告発」を始めた慰安婦たちの報道を前に、その「正しさ」を認めながら、古山は戸惑いを隠せない。それは、ほんとうに「彼女たち自身のことば」だったのだろうか。そして、かつて、戦場で出会った、慰安婦の顔を思い浮かべる。

 「彼女は……生きているとしたら……どんなことを考えているのだろうか。彼女たちの被害を償えと叫ぶ正義の団体に対しては、どのように思っているのだろうか。そんな、わかりようもないことを、ときに、ふと想像してみる。そして、そのたびに、とてもとても想像の及ばぬことだと、思うのである」


「正義の告発」への戸惑いの根拠は、元慰安婦たちへの絶対的思慕である。平穏な日常から切り離され硝煙と血と泥だけの戦地に放り込まれ絶望している兵士たちに、宗教的ともいえる許し・慰安を与えてくれたのは、元慰安婦以外にいなかった。そうした彼女たちは暗い戦争期の唯一の救いとして、あくまで一方的にだが、元兵士の心中で輝きを失うことはなかった。それが告発によって裏切られる。

ああ、五十年のその昔、日中戦争のさなかに、私が武昌や南京の青楼で見かけたあなた方は、不遜なまでに若かった。三日月型の黛はどこまでも青く、しどけなく開いた胸からは、眩しくももの悲しい曲線がこぼれおち、後れ毛をかきあげる華奢な指先には、切ないノスタルジアの蝶々が舞っていた。

(略)

私たち兵士は命がけの作戦を終えて、辛くも後方基地にたどり着けた時、小銃や弾丸や手榴弾、その他数々の重い装具もなにもかもかなぐり捨て、貰ったばかりの軍票と外出許可証を握りしめて、あなた方がたむろする館にまっしぐらに駆けつけ、あなた方の白い胸に顔を埋めるのだった。

つい昨日まで、果てしなく続く曠野を、凶暴な意志に貫かれた一団となって突き進み、田畑を無造作に踏みにじり、村落に乗り込み、村落を通過しては、米や野菜や鶏や酒をかすめとってきた手で、逃げまどう敵の隊列を機関銃で掃射してきた手で、目前の敵兵を銃剣で突き殺してきた手で、敵弾に斃れた戦友の屍を野末に葬ってきた手で、私たちはがむしゃらに、あなた方を抱きしめた。

たとえ限られた短い時間にせよ、あなた方の側近くにいて、あなた方の髪の匂いを嗅ぎ、あなた方の胸の上に手をおき、あなた方の顔をみつめ、あなた方の囁きを聞き、あなた方の小耳をいじくり、あなた方の唇を盗んでいる時だけ、私たち兵士は幸せだった。

もしもあなた方が戦場にいなかったら、私たち兵士はいったいなにを望みに生きていけただろう。青春の夢も望みも、人間性すら奪われた軍隊生活の中では、あなた方に逢えることが、私たちのただ一つの生き甲斐だった。ただ一つの愉楽だったのだ。

http://inouetoshio.com/jyugunian.htm

絶対的思慕に基づく元慰安婦告発発言への違和は口にされることはなかった。なぜなら彼女たちの悲惨な境遇を私はよく知っている。だから理屈では彼女たちが言っているのが正しいことはよく分かる。にもかかわらず彼女の言い分を認めてしまえば、自分の戦後50年間の苦闘はどうなるか。

遅かれ早かれ戦争から帰ってきて戦後のたちまち回復した市民社会のなかで辛うじてではあれ居場所を見つけた自分に対して、反戦時に異国で放り出されたまま市民社会にかえってくることができなかった彼女たち。彼女たちの出自市民社会ではなく封建的農村であり、封建的儒教倫理からもナショナリズムからも彼女たちは帰るべき場所を持っていなかった。

したがって、古山が「とてもとても想像の及ばぬことだ」と書いたのは当然である。

「わたしは目を閉じ、静かに、遥(はる)か遠く、ことばを持てなかった人々の内奥のことばを想像してみたいと思うのである。」というのも間違ってはいない。

しかし、「性急に結論を出す前に」はどうなんだろうか。元慰安婦の証言を疑うという膨大な「なかった派」言説は、古山のような体験者とは全く別のところから発されたものだ。歴史的手段であれ、小説を経由してであれ戦争の実質をある程度知れば、「なかった派」言説がありえない、という結論を出すのは難しくないと思う。

反なかった派的結論を端的に書いても、それが読者に届くことはないと高橋氏は判断しているのであろう。まあそういうこともあるのかもしれないが。

返信2014/08/28 13:17:49
  • 5Re:高橋源一郎の慰安婦論 noharranoharra 2014/08/28 13:17:49
    (論壇時評)戦争と慰安婦 想像する、遠く及ばなくとも 作家・高橋源一郎 の原文はこちらですね。 http://digital.asahi.com/articles/DA3S11320312.h ...