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1noharranoharra   「強制売春説」など

nagaikazu nagaikazu 『 ノーモア様へ

 はじめまして。永井和と申します。ふとしたことから、私の論文の解釈が議論になっているのを知り、このblogにたどりつきました。

 私にできることがありましたら、お手伝いさせていただきます。

 ところで、ebizoさんのおっしゃる、「従軍慰安婦の実態は商行為か性奴隷か」という問題設定は変ですね。

 「性奴隷(制)」とはsex slavery またはsexual slaveryの日本語訳ですが、アメリカではふるくはwhite slaveryという言葉が使われていました。直訳すると、どぎつい感じになりますが、19世紀まで奴隷制が存在していたアメリカでの語用だということを、留意しておく必要があります。

 sex slaveryまたはsexual slaveryは、意訳すれば、「強制売春」となります。だいたいが人身売買や女性をだまして拘束し、売春をさせるわけですね。

 そうして売春婦になった(白人の)女性のことを(黒人の)奴隷になぞらえてwhite slaveとよび、さらに人種的な意味をもつ表現をさけるためにsexual slaveという語になったのだと思われます。

 ですので、sexual slaveと「商行為」とは両立します。sexual slaveを買う人はもちろんお金をはらってますから、これは「商行為」にほかなりません。

 sexual slaveに対立するのは、「自由売春」です。女性が強制に由らずして、自分の意志によって、対価とひきかえに性的サービスをおこなう。

 「従軍慰安婦の実態は商行為か性奴隷か」という問題設定は、問題設定としてはなりたちません。あるいは成り立つのは、日本の特定の論者だけの中であって、ローカルな問題に限定されます。

 また、「従軍慰安婦の実態は強制売春か自由売春か」という問題設定なら、なりたちますが、それは最初から答えがでている問題であって、今まで誰も問題にしたことはないと思います。

 もちろん、私が自分の論文で問題にしたのは、「軍慰安所は軍の施設なのかあるいは民間の施設なのか」という枠組みです。』 (2007/04/01 18:55)

noharra noharra 『永井和先生

こんにちわ。野原燐といいます。(ノーモア21さん横から失礼します。)

私が3月9日にブックマークして以来、永井さんの「日本軍の慰安所政策について」は現在、106ブックマークを獲得していますね。

長くて地味な学術論文としては異例の記録だと思います。しかも、吉見先生と永井先生の微妙な差異を評価しての支持も少なくないと思われます。“微妙な差異”にデリケートになってしまわざるをえない(なかった派優位の)言説情況は不幸なことですが。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/works/guniansyo.html

永井先生には

http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/2semi/menu.html

という頁もありますね。こちらの方はまだ話題になっていなようですが。

国際人として摩擦無く生きていくためには、こちらの方もブックレットにでもして全大学生に強制した方が良い、と思うのはわたしだけではないでしょう。

これからもよろしくお願いします。』 (2007/04/02 08:11)

nomore21 nomore21 『永井先生

このような場末の「急造」ブログにわざわざ御来訪くださりありがとうございます。野原さんも仰っていたように先生の論文は各所で引用され、話題を呼んでいます(そして私が見る限りそのほとんどが「勉強になった」という好意的評価です)。学術論文であるにもかかわらず、非常に明快であり私も非常に勉強させて頂きました。極々少数ですが、中には理解できない人もいるようですけれども(笑)

また「sexual slave」に関する有意義な御指摘も感謝いたします(なるほど「sexual slave」と「商行為」は必ずしも対立する概念ではないのですね)。

http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/2semi/menu.html

も少しづつ読ませて頂いてます。

いずれにしましてもこの問題に関して、アカデミズムの立場から情報を発信なさる先生の存在は貴重です。これからも宜しくお願い致します。』 (2007/04/02 12:04)

ebizoh ebizoh 『>永井和教授

はじめまして。

ご本人であれば、研究の合間でよいので、ぜひご教授賜りたいことがありますので、質問させていただきます。

Q1:white slaveryおよびsexual slaveryという言葉は、意訳すれば強制された売春婦という意味であり、日本の議論においては広義の強制下の売春婦に相当する意味であるという理解でよいのですね?

Q2:旧日本軍のsexual slaveryをそういうニュアンスどおりのものとして米国民は受け取っていますか?米下院慰安婦決議案の内容を読むと、単なる広義の強制下の売春婦以上にむごい性奴隷的な実態までが事実関係として記載されているのですが。

>「従軍慰安婦の実態は商行為か性奴隷か」という問題設定は、問題設定としてはなりたちません。あるいは成り立つのは、日本の特定の論者だけの中であって、ローカルな問題に限定されます。

私は、日本での議論とホンダ議員の発言を踏まえた大雑把な論点整理をさせていただいておりますので、専門家の立場からは暴論に映るかもしれませんが…

Q3:日本での3大対立ポイントは、性奴隷的実態の有無と広義の強制の有無と狭義の強制連行の有無ですよね?

>「従軍慰安婦の実態は強制売春か自由売春か」という問題設定なら、なりたちますが、それは最初から答えがでている問題であって、今まで誰も問題にしたことはないと思います。

そうでしょうか?

Q4:公娼の戦地版という秦氏の説は自由売春ないし管理売春の一類型という主張であり、吉見氏の説は広義の強制売春ないし強制説に基づく売春だと理解していたので、今までに問題となっており、かつ、その問題には答えが出ていないと思いますが、違うのでしょうか?

>私が自分の論文で問題にしたのは、「軍慰安所は軍の施設なのかあるいは民間の施設なのか」という枠組みです。

教授の新視点には、勉強させていただきました。

Q5:しかし、ベトナム戦争時の韓国人慰安婦は、韓国人研究者によると、軍の補給品扱いだったのですよね?ある意味で軍の施設で働く人間よりも非人道的な扱いであり、国家責任が日本より強く生じてしまいかねないと思いますが、この点はどうお考えでしょうか?私は旧日本軍慰安婦にもベトナム戦争時の韓国軍慰安婦にも法的責任は生じないと考えておりますが。』 (2007/04/02 15:05)

ebizoh ebizoh 『

一部訂正です。

×ベトナム戦争時の韓国人慰安婦

ベトナム戦争時の韓国軍慰安婦』 (2007/04/02 20:27)

noharra noharra 『エビゾーさんへ質問

>>>Q3:日本での3大対立ポイントは、性奴隷的実態の有無と広義の強制の有無と狭義の強制連行の有無ですよね?<<<

そんなこと誰が決めたのですか?』 (2007/04/02 23:07)

ebizoh ebizoh 『野原さんへ

いや、誰も決めてませんよ。

せっかく専門家ご本人?が降臨されているのですから、この貴重な好機に疑問点は聞いておかなくては、と思って質問しているだけです。しかもQと?ではさんでるでしょ?日本語も英語も読めませんか?

回答内容に納得すれば、なるほど、と受け入れるだけのことですし、ノーモア氏との議論での無駄も無くなり、一石二鳥でしょう。

私の先祖は3代にわたって学者なので、自説や学説状況が誤解されるのを嫌がる学者の気持ちは良く理解しておりますし、学者を神聖視してありがたがる愚民にもなれません。学生時代に指導を受けた教授の方々も、みな質問した方が喜びましたよ。』 (2007/04/02 23:54)

nagaikazu nagaikazu 『野原様

 はじめまして。私のWebサイトに掲載した拙稿に注目し、広く紹介していただき、ありがとうございます。

 野原さんのblogで、ノーモアさんのこのblogのことを知り、やってまいりました。よろしくお願いします。

 拙稿を公開してからかなりの年数がたちますが、今までこれほど注目されたことがありませんので、少しとまどっております。

 拙稿はたしかに吉見氏の解釈に異論を唱えていますが、これはアカデミックな細かい議論であって、おおすじにおいては大きな差はありません。

 慰安婦問題についての吉見氏の学問的貢献ははかりしれないものがあり、私など足もとにも及びません。

 拙稿は、慰安婦問題を総括的に論じることを目的としたものではありません。もともとは小林よしのり氏の「良い関与論」の資料的根拠とされている、いわゆる「副官通牒」の解釈がデタラメであることを示すために、書いたのであり、論文の構成あるいは叙述レトリックも、それによって逆に規定されています。そいうバイアスがかかっていることを理解していただきたいのですが、なかなか思うようにはいきません。

 野原さんが言及されている「自由主義史観を読む」に掲載した私の第一稿は、史料の紹介を中心にしていることもあって、さらに誤解されやすいようです。

 enjoykoreaという掲示板で、日本軍は「強制連行」しなかった、慰安所制度は公娼制度の現実からみて合法であり、何の問題もなかったとの主張を証明する材料として、上記の拙論が使われているのを見て、さすがの私も驚きました。

 ですので、ブックレットなどにして配布するのは恐ろしくてできません(笑い)。』 (2007/04/03 12:07)

nagaikazu nagaikazu 『ノーモア様

 拙稿を評価していただき、まことにありがとうございます。ノーモア様の奮闘ぶりには、頭がさがります。

 もしも私がしゃしゃり出たことで、ご迷惑が及ぶようでしたら、遠慮なく言ってください。退散いたしますので。

 

 sex(ual) slave(古くはwhite slave)に対立する言葉は、たぶん、sex workerだろうと思います。現実には後者は前者の言いかえにすぎないことも多いわけですが、概念としては対立概念でしょう。

奴隷」に対する「労働者」。そのちがいは、雇用者との関係にあって、サービスを提供する相手(すなわち顧客)との関係にあるのではありません。

 顧客からサービスの対価として金を受け取る(すなわち「商行為」である)のはどちらも同じ。

 その女性がsex(ual) slaveだから、タダでいいなんてことはありません。そんなことをしたら、sex(ual) slaveの雇用者である売春業者の商売がなりたちません。

 ですので、「性奴隷か、商行為か」などという問題設定そのものが、最初からナンセンスなのです。

 あ、それから、これは野原さんへのメッセージに先に書いておくべきことでしたが、これ以降は、「先生」をつけていただくのは、ご無用にねがいます。ただの永井さん、もしくは永井様で十分ですので。』 (2007/04/03 12:22)

nagaikazu nagaikazu 『ebizoh様

はじめまして。まず、私の以前のコメントで、あなたのハンドルの表記を誤記していたことを、お詫びします。失礼いたしました。

 さて、お尋ねの件ですが、質問が5つもありますので、一度には返答できかねますが、その点はご了承ください。

>Q1:white slaveryおよびsexual slaveryという言葉は、意訳すれば強制された売春婦という意味であり、日本の議論においては広義の強制下の売春婦に相当する意味であるという理解でよいのですね?

 お答えします。「white slaveryおよびsexual slaveryという言葉は、意訳すれば強制された売春婦という意味である」ことは、私がすでに述べたとおりですので、まちがいありません。

 しかし、そのあとの「日本の議論においては広義の強制下の売春婦に相当する意味」であるかどうかは、この「広義の強制下」の意味が何であるかによって、Yesともなり、またNoともなりえます。

 そこで、まず、ebizohさんのおっしゃる「広義の強制下」が何を意味するのか、それをうかがってから、再度返答させていただきます。

Q2:旧日本軍のsexual slaveryをそういうニュアンスどおりのものとして米国民は受け取っていますか?米下院慰安婦決議案の内容を読むと、単なる広義の強制下の売春婦以上にむごい性奴隷的な実態までが事実関係として記載されているのですが。

 私はアメリカに住んだ経験もありませんし、現にアメリカに住んでいませんので、今現在の米国民がどういうニュアンスで感じているのかはわかりません。

 しかし、親日派アメリカ国務省の役人が「強制連行の有無はそもそも問題ではない」(安倍首相の対応は米国民には理解されず、かえって日本のイメージを悪化させるだけだ)との趣旨の発言しているという記事をどかこで、読んだ記憶があります。

 アメリカヨーロッパにおいてwhite slaveという言葉がどのような意味で使われてきたかについて、歴史の勉強として学んだことがありますが、sex(ual) slaveがwhite slaveの現代的な表現だとすれば、それは強制売春売春婦という以上の意味をもちえません。

 1910年に「醜業を行わしむる為の婦女売買取締に関する国際条約」(いわゆる「醜業条約」)が成立し、日本も批准しました。この条約の英語名は、Convention for the Suppression of the ”White Slave Traffic” です。つまり、1910年当時の日本外務省は、

”White Slave Traffic”を「醜業を行わしむる為の婦女売買」と訳したのです。Trafficは「婦女売買」に該当しますから、White Slaveは「(女性に)醜業を行わしむること」、すなわち「強制売春」を意味します。

 また、同じ年にアメリカで制定されたいわゆるマン法は、正式名をWhite-Slave Traffic Actと言い、これは「売春規制法」として知られています。

 なお、日本人がアメリカでの言葉の使われ方(そこでの語義の説明が正確であるかどうかは別として)を知るてっとり場合方法は、Wikipediaで引いてみることですが、Wikipediaの説明でも、sex(ual) slaveryは、forced prosutitutionとされています。

 米下院決議は、`comfort women’ system of forced military prostitution by the Government of Japanとしています。

 これは`comfort women’ systemは、forced military prostitution by the Government of Japanであると言っているわけですが、日本語に訳せば、「慰安婦制度は日本政府による軍用強制売春であった」となりますね。

 ただ、通常の強制売春ではみられない虐待の事例がみられたと言っていますが、基本的には「強制売春」という認定ですね。

 それよりも、ebizoh様は、sex(ual) slaveryを「性奴隷制」と直訳したうえで、それを通常の「強制売春」とは異なるものとして把握されているようですが、その「単なる広義の強制下の売春婦以上にむごい性奴隷的な実態」にいうところの「性奴隷」とは、いったいどのようなものなのですか。それが明らかでないと、ご質問には答えようがないですね。

 

 長くなりましたので、今日はここまでとさせていただきます。』 (2007/04/03 12:59)

ebizoh ebizoh 『>永井和教授

>私の以前のコメントで、あなたのハンドルの表記を誤記していたことを、お詫びします。失礼いたしました。

いえいえ。単なる誤記なので全く気にしておりません。

わざわざお詫びいただき、恐縮です。

ご研究の合間の貴重な時間を、素人の素朴な質問に丁寧に答えてくださり、感謝します。

>「日本の議論においては広義の強制下の売春婦に相当する意味」であるかどうかは、この「広義の強制下」の意味が何であるかによって、Yesともなり、またNoともなりえます。

>ebizohさんのおっしゃる「広義の強制下」が何を意味するのか

私としては、日弁連報告の定義または吉見氏の定義を念頭に置いています。いわゆる強制説(最広義の説)だけが問題としている人種差別は除外し、それ以外の甘言威迫による業者の連行や性奴隷状態に至らない程度の虐待などを含む概念と考えています。

親日派アメリカ国務省の役人が「強制連行の有無はそもそも問題ではない」(安倍首相の対応は米国民には理解されず、かえって日本のイメージを悪化させるだけだ)との趣旨の発言しているという記事をどかこで、読んだ記憶があります。

>sex(ual) slaveがwhite slaveの現代的な表現だとすれば、それは強制売春売春婦という以上の意味をもちえません。

強制売春下の売春婦という意味だけで捉えるなら、当時の一般の公娼の一部にもいたでしょうから、sexual slaveryという用語を使うのは理解できますが、問題は、その用語法が、強制売春の主体が日本軍であり業者ではないというイメージを世界的に広めている点にあると思います。

私の理解は基本的に秦説によるので、軍は顧客であり業者が主体ですから。

>米下院決議は、`comfort women’ system of forced military prostitution by the Government of Japanとしています。

>これは`comfort women’ systemは、forced military prostitution by the Government of Japanであると言っているわけですが、日本語に訳せば、「慰安婦制度は日本政府による軍用強制売春であった」となりますね。

正に、この日本政府が主体とされているところが、秦説からは問題になると思います。

>ただ、通常の強制売春ではみられない虐待の事例がみられたと言っていますが、基本的には「強制売春」という認定ですね。

>「単なる広義の強制下の売春婦以上にむごい性奴隷的な実態」にいうところの「性奴隷」とは、いったいどのようなものなのですか。

下院決議案の事実関係部分の、その通常の強制売春より強度の虐待事例が、私の理解では性奴隷状態です。

永井教授、ご回答ありがとうございました。』 (2007/04/04 08:05)

nagaikazu nagaikazu 『ebizoh様

問題はかなり複雑ですので、少し整理してみましょう。この整理の仕方でいいかどうか、それを確認してから進むことにしてはどうでしょうか。

 私のみるところでは、今までのわれわれのやりとりをふりかえってみて、議論すべき論点としては、以下の3つがあるように思えます。

1.英語のsex(ual) slaveあるいは、sex(ual) slaveryの解釈をめぐる問題、より限定すれば、アメリカ下院決議案で言及されているsex(ual) slaveryの解釈をめぐる問題と言いかえてよい。

1a.永井は、sex(ual) slaveryを「強制売春」と解釈する。

 sex(ual) slavery = forced prostitution説.

1b.ebizoh様は、sex(ual) slaveryを「強制売春」+女性に対する強度の虐待と解釈される。

 強度の虐待の具体例としては、アメリカ下院決議案で言及されている、gang rape, forced abortions, humiliation, and sexual violence resulting in mutilation, death, or eventual suicide...等(輪姦、堕胎の強制、恥辱、性暴力による身体損傷、死亡、自殺等)が想定されています。

 つまり、ただの「強制売春」では不足で、それに上記のような「強度の虐待」が加わってはじめてsex(ual) slaveryとよびうるとの立場です。

 sex(ual) slavery ≠ forced prostitution説.

 この1に関しては、不十分ですが、私は自説の根拠を提示しました。できれば、ebizohさんも、1b説の根拠を提示していただけるとさいわいです。

 

2.従軍慰安婦の実態をめぐる問題。言いかえれば、「従軍慰安婦の実態は「性奴隷」なのか、「強制売春」なのか、「自由売春」なのか」という問題。

2a. 永井は、「性奴隷」=「強制売春」説なので、そもそもこの三択問題がなりたたないという説であり、「従軍慰安婦の実態は「強制売春」なのか、「自由売春」なのか」という二択問題に対する正答は、「強制売春」だと考えている。ついでに言えば、いわゆる「広義の強制」は慰安婦リクルートに際して「Human Traffic=人身取引・人身売買」が行われていたことをさすものであるので、永井のいう「強制売春」には当然含まれている。

2b.ebizoh様は、「性奴隷」≠「強制売春」説なので、この三択問題が成り立つとする説であり、しかもそれに対する正答は、「公娼の戦地版という秦氏の説」にしたがって「自由売春ないし管理売春の一類型」とみなすべきだとの説をとる。

 つまり、「性奴隷」でもなければ、「強制売春」でもなく、三択なので「自由売春」だったとの結論となる。


3.「性奴隷」あるいは「強制売春」の「強制」の主体をめぐる問題(これは軍と慰安所との関係をめぐる問題に帰着する)。

 これがじつはいちばん中心に位置する問題なのですが、実態において「性奴隷」もしくは「強制売春」であったとして、その「強制」の主体は、軍なのか民間業者なのかという問題です。

 2b説に立つebizoh様からすれば、「強制」そのものがないわけですので、そもそも3は問題とはならないはずですが、ここでは、「もしかりにそうだとした場合」ということにしておきましょう。

3a. 永井は、拙論でも書いたように、軍慰安所は軍が設置した性欲処理のための後方施設であると把握しており、軍はその経営を民間業者に請け負わせていた。それゆえ、実際に慰安婦の募集と慰安所の運営に直接従事していたのが、民間業者だったとしても、慰安所の設置主体が軍であり、しかも慰安所では「強制売春」が行われ、かつ軍がそれを容認していた以上、「強制売春」の「強制」の主体は軍であり、それについて軍の責任は免れないと考える。


3b.ebizoh 様は、アメリカ下院決議案は「強制」の主体が日本軍あるいは日本政府としているが、それは事実誤認であり、慰安所の経営者慰安婦の募集に従事した女衒は、軍とは関係のない民間業者であった。かつまた、彼らは軍から「強制売春」することを命じられたのではない。それゆえに、「強制」の主体は軍=政府ではなくて、あくまでも民間業者であると主張される。

 

 学説史でいえば、3aは吉見・永井説であり、3bは秦説であるということになります。』 (2007/04/04 20:42)

nagaikazu nagaikazu 『ebizoh様

 ところで、以前私は、「従軍慰安婦の実態は強制売春か、自由売春か」は、最初から答えがでている問題だと言いました。それに対してebizohさんは、2b説を提示して、疑問を出されましたので、それに反論する意味で、簡単に補足しておきましょう。

 なお、これは以前のebizohさんのコメントにあった、Q4に対する回答でもあります。

 つい最近、軍の関与を否定する発言をされた下村博文官房副長官は、新聞報道によると、最初「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、『従軍慰安婦』はいなかった。ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。だが日本軍が関与していたわけではない」と言ったようです。

 「ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う」は、「人身売買により売春を強制された慰安婦がいた」と下村氏が認識していることを意味します。

 下村氏にかぎらず、「朝鮮人女衒が悪辣な方法で慰安婦を集めた。悪いのは、軍ではなくてそれらの業者だ」という認識を提示される方は、ネット上でもいやというほど見かけます。「慰安婦の実態は、自由売春で、強制性はまったくなかった」と主張される方を、私はほとんど見たことがありません。ここでの ebizoh様くらいのものです。

 また、それらの論者は、みな慰安婦制度は公娼制度の一種だから、当時合法であったと主張されますが、公娼制度が自由売春ではなくて、「事実上の強制売春」であったことは、周知の事実です。ですから、公娼制度の一種である慰安婦制度もまた「事実上の強制売春」にほかなりません。「慰安婦制度は公娼制度の一種」という主張の中に「従軍慰安婦の実態は、強制売春」との認識が最初から内包されているわけです。

 

つまり、日本では、「従軍慰安婦の実態は、強制売春である」との前提(すなわち2a説)のもとに、その「強制」に軍が関与していたのか、否かが、争点として争われてきたのです(この部分は、ebizohさんの以前のQ3に対する回答でもあります)。

 ですので、私は「従軍慰安婦の実態は強制売春か、自由売春か」は、最初から答えがでている問題だと言いました。しかし、ebizoh様はそうは考えておられないようです。是非2b説が正しいことを証明していただきたい。

 

 なお、管理売春は「強制売春」の一種です。

最後に、以前のQ5ですが、私は朝鮮戦争の際に、韓国軍が軍慰安所をつくったとの話を聞いたことはありますが、ベトナム戦争時のことは知りませんので、お答えできかねます。』 (2007/04/04 20:46)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

分かり易く整理されたご回答、ありがとうございます。

>この1に関しては、不十分ですが、私は自説の根拠を提示しました。できれば、ebizohさんも、1b説の根拠を提示していただけるとさいわいです。

1a説については、英語圏でのsexual slaveryの通常の用語例ということには納得いたしました。

1b説は、米下院慰安婦決議案の事実関係中の日本軍慰安婦の実態がその通常の用語例の意味を越えるものを含んでいることを考慮した考えです。つまり、慰安婦決議案における日本軍慰安婦の実態に基づく用語例です。

>2.従軍慰安婦の実態をめぐる問題。言いかえれば、「従軍慰安婦の実態は「性奴隷」なのか、「強制売春」なのか、「自由売春」なのか」という問題。

永井教授の整理にほぼ同意いたしますが、一部だけ付言させてください。

>つまり、「性奴隷」でもなければ、「強制売春」でもなく、三択なので「自由売春」だったとの結論となる。

私の理解では、実態としてはおそらく強制売春のケースも自由売春のケースも両方あったと思います。

そのため、海老蔵説は、2b・3b混合説であり、自由売春のケースでは日本の国家責任も業者の責任も否定され、強制売春のケースでは3b説により国家責任が否定され業者の責任となります。

しかし、この点は、おそらく、自由売春と管理売春の意義の理解について、私と永井教授との間で差異がありその差異が3.にも影響すると思われますので、3.についての回答で詳述いたします。

>3.「性奴隷」あるいは「強制売春」の「強制」の主体をめぐる問題(これは軍と慰安所との関係をめぐる問題に帰着する)。

>これがじつはいちばん中心に位置する問題なのですが、実態において「性奴隷」もしくは「強制売春」であったとして、その「強制」の主体は、軍なのか民間業者なのかという問題です。

同意いたします。

違法な強制の主体となった場合に法的責任を基礎付けられるという私の理解とも合致しております。

>学説史でいえば、3aは吉見・永井説であり、3bは秦説であるということになります。

同意いたします。

>以前私は、「従軍慰安婦の実態は強制売春か、自由売春か」は、最初から答えがでている問題だと言いました。それに対してebizohさんは、2b説を提示して、疑問を出されましたので、それに反論する意味で、簡単に補足しておきましょう。

>なお、これは以前のebizohさんのコメントにあった、Q4に対する回答でもあります。

>「慰安婦の実態は、自由売春で、強制性はまったくなかった」と主張される方を、私はほとんど見たことがありません。ここでのebizoh様くらいのものです。

上記2.についてのコメントでふれたように、一部誤解があります。

そして、その誤解は自由売春と強制売春の意義の理解の差異からも生じていると思われますので、後ほど。

>それらの論者は、みな慰安婦制度は公娼制度の一種だから、当時合法であったと主張されますが、公娼制度が自由売春ではなくて、「事実上の強制売春」であったことは、周知の事実です。

周知の事実ではなく、一部の論者の考えにすぎません。

行為当時の法解釈によれば、公娼制度の枠内であれば合法であり、強制売春ではありません。実態として、公娼制度の枠を越える搾取虐待などのケースがあった場合には強制売春にあたるので、このケースだけを事実上の強制売春と呼ぶのであれば、異論はありません。

公娼制度の一種である慰安婦制度もまた「事実上の強制売春」にほかなりません。「慰安婦制度は公娼制度の一種」という主張の中に「従軍慰安婦の実態は、強制売春」との認識が最初から内包されているわけです。

>つまり、日本では、「従軍慰安婦の実態は、強制売春である」との前提(すなわち2a説)のもとに、その「強制」に軍が関与していたのか、否かが、争点として争われてきたのです(この部分は、ebizohさんの以前のQ3に対する回答でもあります)。

>ですので、私は「従軍慰安婦の実態は強制売春か、自由売春か」は、最初から答えがでている問題だと言いました。

これも、前述コメント同様の理由で、誤解だと思います。秦氏その他の3b説の学者に質問されてみることをお勧めします。おそらく私とほぼ同じ答えが返ってくると思います。

>しかし、ebizoh様はそうは考えておられないようです。是非2b説が正しいことを証明していただきたい。

 

上記において説明したとおり、海老蔵説は、2b・3b混合説であり、秦氏などの3b説の中にも、同じ論者はいると思います。

>なお、管理売春は「強制売春」の一種です。

この考えは、管理売春が違法化された売春防止法施行後にのみ成り立ち得る解釈でしょう。同法施行以前の行為当時は、管理売春も自由売春の一種です。

>最後に、以前のQ5ですが、私は朝鮮戦争の際に、韓国軍が軍慰安所をつくったとの話を聞いたことはありますが、ベトナム戦争時のことは知りませんので、お答えできかねます。

この点は、一部私の記憶違いがあったために、修正して質問させていただきます。

Q5-2:朝鮮戦争時の韓国軍慰安婦は、韓国人研究者金貴玉氏によると、軍の第五種補給品扱いだったそうです(2002年2月24日立命館大学での国際シンポジウム)が、ある意味で軍の施設で働く人間よりも非人道的な扱いであり、国家責任が日本より強く生じてしまいかねないと思いますが、この点はどうお考えでしょうか?私は旧日本軍慰安婦にも朝鮮戦争時およびベトナム戦争時(金氏が当該事実をつかんだのは1996年頃なので、それまで問題とならなかった以上、朝鮮戦争時と同じ扱いだと私は推測します)の韓国軍慰安婦にも法的責任は生じないと考えておりますが。

貴重なご研究の時間の合間でかまいませんので、ぜひ今後ともご教授くださいませ。』 (2007/04/05 00:05)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

重ね重ね恐縮ですが、追加の質問です。

Q6:永井説は、(吉見説-陸支副官通牒の吉見解釈)+(陸支副官通牒および内務省警保局長通牒の永井解釈+永井慰安所兵站施設論)=日本の法的責任肯定、という構造だという海老蔵の理解は、正しいでしょうか?

ご研究の負担にならない時間で結構ですので、どうぞよろしくご教授お願いいたします。』 (2007/04/05 01:56)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

補足ですが、海老蔵説は、秦説に基本的に従っており、私は秦説こそが2b・3b混合説の元祖だと考えています。

根拠は、秦郁彦慰安婦と戦場の性』には、

『慰安所の設置や運営、女性の募集は民間業者が行なった。募集は、新聞広告による穏やかなものから、甘言、誘惑、借金のかた、人身売買などあくどいものまで、さまざまな形態があり、これを一般化するのは無理である。』というような記述があるからです。

つまり、秦説は、私の前述の用語法における自由売春、管理売春、事実上の強制売春の全ての類型にあたる様々な実態があったという理解であり、私も同様の理解です。』 (2007/04/05 07:30)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

補足その2ですが、韓国軍慰安婦についての私の知識は秦郁彦『歪められる日本現代史』p108から得ており、その新聞報道をテキスト化したものがWEB上にありましたので、ご紹介しておきます。

http://www.tamanegiya.com/kannkokugunniannfu-.html』 (2007/04/05 07:43)

nagaikazu nagaikazu 『ebizoh氏への回答

 まず、私の問題整理に合意していただいたことに、お礼申し上げます。よって、以下では、私が整理した論点にしたがって、議論を進めていくことが、そのご好意に報いる方法だと考えて、お答えすることにいたします。

1の論点について

 まず、sex slavery= forced prostitutionというのが英語の一般的な語用法であることについては、合意いただけたものと考えます。論点の整理法につづき、この問題に関しても、一致点がみられたことは、お互いに喜ぶべきことだと思います。

 としますと、1の論点で引き続き問題となりそうなのは、以下の諸点ではないかと思われます。

1-1:下院決議案中のsex slaveryが、上記の英語の一般的な語用法とは異なる特殊な意味合い(すなわちebizoh様が主張されるforced prostitution+extreme sexual abuseの意味で)使用されているのではないか。

1-2:下院決議案sex slaveryは、とくに一般的な語用法からはずてているわけではないが(つまり1-1は否定されるが)、sex slaveryを日本語の「性奴隷」と翻訳する際に、「性奴隷」という語感から、無意識のうちに、forced prostitutionだけでなく、extreme sexual abuseの意味が付加されてしまったのではないか。

 つまりこれは、下院決議案での語の使い方の問題ではなくて、sex slaveryの日本語翻訳によって生じた問題だということになります。

1-3:問題とすべきは、上記のような下院決議案中のsex slaveryの語用法ではなくて、下院決議案が「従軍慰安婦の実態」および「軍と慰安所・慰安婦との関係」について、事実誤認していることこそが問題なのではないか。

 この場合の事実誤認とは、

1-3-1:下院決議案が、「従軍慰安婦制度をもって「強制売春」とみなしたうえで(2b説)、さらに一部においてextreme sexual abuseがみられたとして、最悪の「強制売春」であると断定している点(+extreme sexual abuse説)と、

1-3-2:従軍慰安婦制度をもって日本政府による強制売春制度とみなしている点(3a説に立っている点)

ということになるかと思います。

 問題1-1が想定しているような語用を下院決議案がしているのであれば、アメリカ国内や英語に通じた日本人から、すでにそのことが指摘されたはずだと考えられますので、いまのところそのような指摘がない事実を考慮すると、1-1は、これ以上議論すべき問題とは思えません。

 さらに、英語がそれほど得意とも思えない、われわれ二人で議論しても、不毛な結果に終わるのは目に見えていますので、この問題1-1はこれ以上とりあげる必要はないかと思います。

 また問題1-2は日本語の翻訳の問題ですので、下院決議案提出者やそれを支持するアメリカ人に責任はありません。日本語の翻訳が正しいかどうかは、たしかにひとつの問題ですが、ここで議論すべきことだとは思えません。

 

 また、問題1-3は、もはやsex slaveの語義、語用の問題ではなく、「従軍慰安婦の実態」および「軍と慰安所、慰安婦との関係」に関わる問題ですので、論点2と3に帰着します。

 ですので、1についてはこれ以上の議論は無用かと思います。

 もし、この点について何か御意見があれば、指摘してください。なければ、次ぎに論点2に進みたいと思います。』 (2007/04/06 14:01)

nagaikazu nagaikazu 『訂正です。

1-3-1:下院決議案が、「従軍慰安婦制度をもって「強制売春」とみなしたうえで(2b説)、さらに一部においてextreme sexual abuseがみられたとして、最悪の「強制売春」であると断定している点(+extreme sexual abuse説)、

上記は誤りで、正しくは、

「強制売春」とみなしたうえで(2a説)

です。謹んで訂正いたします。』 (2007/04/06 14:05)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

まことに的確で分かりやすい原因分析、ありがとうございます。

今まで何度も言われて聞き飽きていらっしゃるでしょうから、私などに言われても今さらと思われるかもしれませんが、永井教授は大変smartですね。

>問題1-1が想定しているような語用を下院決議案がしているのであれば、アメリカ国内や英語に通じた日本人から、すでにそのことが指摘されたはずだと考えられますので、いまのところそのような指摘がない事実を考慮すると、1-1は、これ以上議論すべき問題とは思えません。

>われわれ二人で議論しても、不毛な結果に終わるのは目に見えていますので、この問題1-1はこれ以上とりあげる必要はないかと思います。

同意いたします。

>問題1-2は日本語の翻訳の問題ですので、下院決議案提出者やそれを支持するアメリカ人に責任はありません。日本語の翻訳が正しいかどうかは、たしかにひとつの問題ですが、ここで議論すべきことだとは思えません。

同意いたします。

ただ一言付言させていただくと、この問題とは別に純粋にドメスティックな問題1-2bとして、吉見氏が最初に日本語で慰安婦は性奴隷制だという主張をされた時に、本来の意図する意味がsexual slavery=強制売春だったのにもかかわらず、あえて日本語の通常の用語例としてはそれより強度の搾取虐待などの意味である性奴隷制という直訳的な言葉を使ったのだとしたら、世論の支持を得るためにあえてどぎつい言葉を使ったのではないだろうか?という疑問が湧きます。

永井教授も、もし本来の意図が慰安婦制度は国家による強制売春制度というご主張なのであれば、今後はその旨の用語例に従っていただけると、性奴隷制という用語を使ったときの日本国内での議論の紛糾をもたらさずに良いかと思われますが、いかがでしょうか?

>問題1-3は、もはやsex slaveの語義、語用の問題ではなく、「従軍慰安婦の実態」および「軍と慰安所、慰安婦との関係」に関わる問題ですので、論点2と3に帰着します。

同意いたします。

>ですので、1についてはこれ以上の議論は無用かと思います。

>もし、この点について何か御意見があれば、指摘してください。なければ、次ぎに論点2に進みたいと思います。

上記問題1-2b以外の点では、特に意見はなく、同意いたします。

貴重なご研究の時間の合間を縫ってのご回答、誠に有難うございました。』 (2007/04/06 21:25)

nagaikazu nagaikazu 『ebizoh様

>上記問題1-2b以外の点では、特に意見はなく、同意いたします。

 ということですので、問題2に進みたいのですが、その前に、ebizoh様追加された1-2bに対して、私の意見を申し述べておきます。

 まず、英語のsex slaveryと日本語の「性奴隷制」とでは、意味が少しちがっており、後者の外延のほうが前者のそれより小さい、言いかえれば、英語では一般的に「強制売春」の意味であるのに、日本語の「性奴隷制」は極度の虐待や酷使を伴う「強制売春」との意味合で使われることが多いのは、現実に存在している言語的事実であると私も認めます。そして、ebizoh様(はじめ多くの方が)は下院決議案のsex slaveryをそのような意味での「性奴隷制」として受け取ったこと、も。

 その点を考慮して、ここでの議論では、無用の誤解を避けるために、sex slaveryの訳語としては、私は「強制売春」を使用し、「性奴隷制」を使わないことにしてきましたし、これからもそのようにするつもりです。

 しかしこのことは、「従軍慰安婦の実態は日本語の意味での「性奴隷制」ではなかった」と、私が最初から主張していることを必ずしも意味するのではないという点を、ご理解ください。

 前回の整理で言えば、

1-3-1:下院決議案が、「従軍慰安婦制度をもって「強制売春」とみなしたうえで(2a説)、さらに一部においてextreme sexual abuseがみられたとして、最悪の「強制売春」であると断定している点(+extreme sexual abuse説)

 もしも、この1-3-1が、ebizoh様が主張されているような誤解ではなくて、正解であったとすれば、ebizoh様がまさにそのように感じたごとく、「従軍慰安婦の実態は(日本語の意味での)「性奴隷制」だった」ことになりかねませんので。

 つまり、この問題も、結局は2の問題(というかその付随問題)に帰着するわけです。もっとも、私の主たる関心は、「慰安婦制度は国家による強制売春制度であった」と主張する点におかれていますから、「日本語の意味でも「性奴隷制」であったか、どうか」は、あくまでも付随的な問題にとどまります。

 それから、1-2bにおいて、ebizoh様は、吉見氏が「性奴隷制」という言葉を使ったのは、「世論の支持を得るためにあえてどぎつい言葉を使ったのではないだろうか」と邪推されていますが、私にはわかりません。もしお疑いならば、吉見氏に直接質問されてみることをお勧めします。

 

 ただ、吉見氏の『従軍慰安婦1995年は、全部で234頁の本ですが、「性奴隷」「性的奴隷」という言葉が登場するのは、4カ所です。いずれも、「性(的)奴隷」は「強制売春」あるいは「売春を強制させられている女性」という意味合いで使用されています。

1)「「従軍慰安婦」とは日本軍の管理下におかれ、無権利状態のまま一定の期間拘束され、将兵の性交の相手をさせられた女性たちのことであり、「軍用性奴隷」とでもいうしかない境遇に追い込まれた人たちである。」(11頁)

 これは、「従軍慰安婦」の定義のようなものですが、「無権利状態のまま一定の期間拘束され、将兵の性交の相手をさせられた女性たち」からは、「売春を強制させられた女性」という以上の意味を読み取るのはむずかしいでしょう。

2)「以上のような環境のもとで、軍慰安所の女性たちは、日々、日本軍の将兵から性的奉仕を強要されつづけていた。日本軍は、このような女性を大量に抱え込みながら、彼女たちを保護するための軍法を何もつくらなかったのである。事実上の性的奴隷制である日本国内の公娼制でも、十八歳未満の女性の使役の禁止、外出・通信・面接・廃業などの自由を認めていたが、この程度の保護規定すらなかった。従軍慰安婦とは、軍のための性的奴隷以外のなにものでもなかったのである。」(158頁)

 「以上のような環境」として吉見氏は、「性交の強要」「酒を飲んでの暴行」「少ない休日」「実質的な手取りの少ない報酬」「厳しい監視」「経済的・精神的拘束」「苦痛からのがれるための麻薬の常用」「性病伝染」「病死・自殺心中強要」などの諸項目をあげています。これらの項目は「極度の性的虐待や酷使」ともいえなくもないですが、そうすると、通常の公娼制も事実上の「極度の性的虐待や酷使」と吉見氏が解釈していることになりますが、そこまでいっているようには思われません。なぜなら、公娼制度を3)のように規定しているからです。

3)「公娼制度は、まさに人身売買、性の売買と自由拘束を内容とする事実上の性的奴隷制だったのである」(227頁)

 公娼制度とは「人身売買と自由拘束によって女性に売春を強要する制度だから性的奴隷制だった」という論理構造になっています。「人身売買と自由拘束によって女性に売春を強要するばかりでなく、さらに極度な性的虐待を加え、女性を酷使する制度だから性的奴隷制だった」と言っているわけではありません。

4)「(もっとも、公娼制度における権利を過大視することはできない。この点で慰安婦を「売春婦型」と「性的奴隷型」にわける見解には同意できない)」(231頁)

 この部分は、慰安婦たちは「公娼制度のもとで(娼妓には)認められていた廃業の自由や通信・面接の自由さえ保障されない、まったくの無権利状態であった」と述べたあとに、ただし書きとして付加された部分です。つまり、慰安婦公娼制度の娼妓とは質的に断絶したものとみる見方に、吉見氏は反対しているわけです。ここでいう「売春婦型」とは、公娼制度の娼妓と同等の待遇にある慰安婦をさし、「性的奴隷型」とは、公娼制度の娼妓と比べてもさらにひどい待遇しか受けない慰安婦をさします。つまり、吉見氏が否定している「性的奴隷型」の「性的奴隷」こそ、ebizoh様が理解している日本語としての「性奴隷」にほかなりません。吉見氏は、そういう区別をするのはあまり意味がないとしているのですから、慰安婦公娼制度の娼妓との連続性を重視する立場といえます。』 (2007/04/08 19:07)

nagaikazu nagaikazu 『 少し、1-2bに対するコメントが長くなりましたが、ここで本題である論点2、すなわち「従軍慰安婦の実態は、強制売春か自由売春か」という事実問題の検討に入ることにします。

(付随的に、「強制売春」だとしても、はたして下院決議案で言及されているような、極度の虐待が実際におこなわれていたのかどうかも、問題となります。)

 

 この点に関して私の立場はすでに明らかにしましたように、「従軍慰安婦の実態は、強制売春であり、自由売春ではなかった」という認識(2a)ですが、 ebizohさんは、「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」(2b説)というものです。

 そして、3bにより、その「強制売春のケース」についても、軍および国に法的責任はないという主張が続きます。

 なお、前のコメントで、ebizoh様の2b説を「従軍慰安婦の実態は、自由売春で、強制性はまったくなかった」だと書きましたが、それは誤解だったようですので、正確には、2b説は「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」に修正いたしました。

 それに対応して、私の2a説も、正確には「一部には、自由意志慰安婦となった例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、強制売春であった」ということになります。

 これ以降は、修正されたものをあらためて2a、2bとします。念のために再掲します。

2a:「一部には、自由意志慰安婦となった例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、強制売春であった」(強制売春説)

2b:「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」(自由売春説)

 軍および国の責任については3の論点ですので、あとで検討することにして、論点を単純にするために、ここでは「従軍慰安婦の実態は強制売春か自由売春か」に問題をしぼります。』 (2007/04/08 19:11)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

大変分かりやすいご解説、誠に有難うございました。

教授のご解説によって、吉見説の内容もより正確に理解できました。

その他の点のご解説も、大変勉強になりました。

2a説2b説の内容の修正についても、異論はありません。

ぜひ、今後とも、貴重なご研究の時間の合間で結構ですので、ご教授くださいませ。

2.の中心論点である従軍慰安婦の実態論についても、教授のご解説を楽しみにしております。』 (2007/04/09 01:53)

nagaikazu nagaikazu 『 ebizoh様へ

 さて、私は「従軍慰安婦の実態は強制売春か自由売春か」かはすでに結着のついている問題だと書きました。その論拠として、軍の関与と国の責任を否定する論者(すなわち3b説に立つ論者)自身が、従軍慰安婦の実態に関しては、いずれも2a説に立っており(すなわち2a・3b説)、2b説に立つ論者(2b・3b説)は(ebizoh様以外には)ほとんどいないという事実をあげ、実例として下村官房副長官の発言をあげました。

 それに対して、ebizoh様は、それは誤解であり、3b説の論者はみな自分と同じ2b・3b説だ。ちがうというなら、3b説の論者に聞けばよいと返答されました。

 残念ながら、直接聞くわけにはいきませんので、そのかわりに3b説と思われる論者の発言を調べてみました。

 まずくどいようですが、下村官房副長官にもう一度登場願いましょう。

 新聞報道によりますと、下村氏は、最初「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、『従軍慰安婦』はいなかった。ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。だが日本軍が関与していたわけではない」と言ったそうです。

 下村氏が3b説であることは疑問の余地がありません(あとで一部否定されたわけですが)。しかし、その前の「ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う」は、「人身売買により売春を強制された慰安婦がいたのは事実だ」と下村氏が認識していることを意味します。

 ここで注意すべきは、下村氏が「ただ慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。しかし、それは例外的であって、ほとんどの慰安婦は自らの意志で慰安婦となったのである」とは言わなかった点です。

 下村氏が2b説であるなら、当然そう言わなければいけないところなのに、そうは言わなかった。このことから、明示的に主張しているわけではないとしても、実質的に下村氏も2a説だと私は理解しました。』 (2007/04/10 01:44)

ebizoh ebizoh 『>永井教授

>3b説の論者はみな自分と同じ2b・3b説だ

いえ、読み返せばお分かりになると思いますが、そこまで断定はしていません。

>秦氏などの3b説の中にも、同じ論者はいると思います。

>私は秦説こそが2b・3b混合説の元祖だと考えています。

>根拠は、秦郁彦慰安婦と戦場の性』

としか述べておりませんので。

下村氏がどちらの説であるかはこの際余り問題ではないと思いますし、修正後の2a・2b説も、どちらが基本形態であるかという争いしかないので、永井教授さえよろしければ、次回以降は3.についての教授の分かりやすくて勉強になるご解説をしていただけると有難いと思います。

今後とも、貴重なご研究の合間の時間で結構ですので、ぜひご教授くださいませ。』 (2007/04/10 09:36)

ebizoh ebizoh 『

>永井教授

補足させて頂きますと、上記コメントで3.と書いたのは、慰安婦の実態論という2.の中心論点を論ずるに際して、公娼制、自由売春、管理売春、強制売春という用語の意味内容および実態についての理解の差異がそのまま3.の議論とも密接に関わっていることを前提としており、2.実態論、3.強制の主体論という教授の論点整理を否定する意図ではありません。

厳密に言えば、やはり、2.実態論の中心論点として論ずるのが正しいと思います。』 (2007/04/11 20:50)

返信2007/04/12 21:24:55

2nagaikazunagaikazu   再開します。

永井です。それでは、再開させていただきます。

 議論は、「従軍慰安婦の実態は、強制売春か、自由売春か」という問題をめぐるものであり、

2a:「一部には、自由意志慰安婦となった例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、強制売春であった」(強制売春説)


2b:「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」(自由売春説)

という二つの説が対立しています。私、永井は2a説に立ち、ebizoh様は2b説です。

 現在は、この2の問題を中心にしていますが、さらに3の問題すなわち「性奴隷」あるいは「強制売春」の「強制」の主体をめぐる問題、言い換えれば軍と慰安所との関係をめぐる問題がそのあとに控えています。これについても、次に2説が対立関係にあります。

3a:軍慰安所は軍が設置した性欲処理のための後方施設であると把握しており、軍はその経営を民間業者に請け負わせていた。それゆえ、実際に慰安婦の募集と慰安所の運営に直接従事していたのが、民間業者だったとしても、慰安所の設置主体が軍であり、しかも慰安所では「強制売春」が行われ、かつ軍がそれを容認していた以上、「強制売春」の「強制」の主体は軍であり、それについて軍の責任は免れないと考える。


3b.アメリカ下院決議案は「強制」の主体が日本軍あるいは日本政府としているが、それは事実誤認であり、慰安所の経営者慰安婦の募集に従事した女衒は、軍とは関係のない民間業者であった。かつまた、彼らは軍から「強制売春」することを命じられたのではない。それゆえに、「強制」の主体は軍=政府ではなくて、あくまでも民間業者である。


 永井は3a説であり、ebizoh様は3b説である。また、吉見氏は3a説であり、秦氏は3b説である。

 以上が確認事項ですが、再開前の議論は、永井が、3b説の論者で2b説を支持するものはほとんどいないから、日本でもすでに2の問題は、2a説で決着済みであると主張したのに対して、ebizoh様が、そうではない、3b説の主張者で、2b説に立つものは存在する。その代表例は秦氏であると反論されるところで、終わりました。

 その続きから、話をはじめたいと思います。

返信2007/04/14 01:26:48

3nagaikazunagaikazu   3b説でかつ2a説の実例

 3b説をとなえつつも、2a説に立つ論者として、下村氏の例をあげましたが、下村氏だけではないことを示すために、もう少し追加しておきましょう。

以下にあげるのは、ネットの世界ではよく知られているのではないかと思われます。


例2.依存症の独り言(坂真氏)

http://banmakoto.air-nifty.com/blues/2005/06/post_b28a.html

以下引用

幻の従軍慰安婦2005/06/15

ところで、そもそも「従軍慰安婦」なるものが本当に存在したのだろうか?

答えは「否」である。存在しないのだから「従軍慰安婦」という言葉もない。

だから、中山文部科学相の「従軍慰安婦という言葉はなかった」との趣旨の発言は事実であり、非難される筋合いのものではない。

当時、日本には「公娼制度」があった。「公娼制度」とは、合法的な売春制度のことである。戦前は「遊郭」と呼ばれ、戦後は「赤線」と呼ばれた。

「女衒(ぜげん)」という職業もあった。女衒とは、女の売買を生業(なりわい)とするブローカーのことである。「衒」は売るの意味。

貧しい農家などが、前借金の形(かた)に娘を遊郭などに年季奉公に出す。前借金は、600円(当時)。このうち着物代として200円、女衒に50円取られ、親の手許には350円しか残らなかった。悪い女衒にかかった親には、150円しか渡らなかったという話もある。

もちろん女衒は甘言を弄する。若い娘に「遊郭は、不特定多数の男に肉体を売るところ」などと、本当のことを云うわけがない。また、質(たち)の悪い女衒であれば、恫喝めいた文句を吐くことも多かったであろう。

とにかく戦前の農家は貧しかった。特に、昭和9年、冷害に襲われた東北地方は悲惨極まりない状況だった。冷害ではなく「飢饉」と云う人もいるくらいである。

山形県のある地方では、9万人の人口があったが、そこで2000人もの娘が女衒に連れられて村々から消えたという。昭和恐慌東北地方を中心とする農村の壊滅的な貧困により、娘たちの身売りはピークを迎えていたのである。

昭和12年7月には日中戦争日華事変)が始まり、戦線が次第に中国全土に広がっていく。

「いわゆる従軍慰安婦」は、そういう時代背景の下に生まれた。

※この農村の悲惨な状況が、昭和11年の青年将校による2.26事件の原因の一つになったと云われる。兵隊の姉や妹が、続々と身売りされたからである。

引用終わり

 この坂氏が3b説であることは、あらためて説明するまでもないでしょう。また、慰安婦制度は当時の公娼制度に基づくものであり、それゆえ合法的であったと考えられていることも、また同様です。

 しかし同時に坂氏は、当時の公娼制度が、合法的ではあるが「事実上の強制売春」であったこと、すなわち「身売り」という名の事実上の人身売買が横行していたことも、あわせて指摘しています。

 公娼制度のもとでそういうことが日常的におこなわれていたのだから、慰安婦についても人身売買や売春の強制があるのはやむをえない、それが当時の状況だったのだから、と言っているのです。決して「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」などと言っているわけではありません。

 なお、「身売り」の横行が2・26事件という軍隊の叛乱の原因となったと認定されていることから、坂氏は、当時においても、「身売り」は非難されるべきことであり、そのような悲惨な社会をもたらした者たちは激しく糾弾されるべきであると考えが存在していたことを、いくぶん肯定的に認めておられるようです。

 次は、私の名前もあがっている池田信夫氏のブログです。

例2)人身売買 (池田信夫)

http://210.165.9.64/ikedanobuo/e/ea39407dbb4bac7fc038ef49d2cab134

2007-03-27 00:17:05

引用はじめ

 小倉さんの議論は、政府見解でいえば「広義の強制」があったという話ですね。それは一部にはあったと思います。人身売買で(本人の意に反して)慰安所に送り込まれた慰安婦がいたことは間違いありません。それをsex slaveと呼んでもいいでしょう。

 といっても人身売買は、文字どおり人間を売買するわけではなく、通常は売人が親に代金を支払い、娘は親の借金を背負って、それを完済するまで「足抜き」できないという形を取ります。慰安婦は異国で逃げても本国には帰れないので、暴力的に監禁する必要は通常ありません。秦氏の研究でも、文字どおり暴力的に売春を強要されたという信頼すべき証言はほとんどなく、待遇はリスクの大きいぶん内地よりよかったと推定されています。

要するに、慰安婦を拘束していたのは軍の暴力ではなく、借金による「暗黙の強制」だったのです。もちろん、業者がそういう過酷な労働条件を強いるのを放置したたという意味では、軍の責任はあるでしょう。永井和氏などは、軍の責任はこういう監督責任だとしています。慰安婦は「兵站の一部」であり、軍の実質的な指揮下にあったというわけです。

http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/~knagai/works/guniansyo.html

これも推測に過ぎないが、かりにそれを認めるとしても、日本軍の責任は、業者が慰安婦を酷使しないように十分監督しなかったという不作為責任にとどまります。だから責任がゼロだとはいいませんが、戦後60年たってから外交ルートで騒ぎ立てるような問題でしょうか。

引用終わり

 私の論文を読んだうえで「これも推測に過ぎないが」と仰有っている点には、この際目をつぶることにいたしましょう。ともかく池田氏は、一部であれ、人身売買で売春を強制された例があると、はっきり認めています。

 ただ、その人身売買は「身売り」によって債務で拘束するかたち(「借金による「暗黙の強制」)であって、軍が暴力的に女性を拉致・監禁していたのではない、というのが池田氏の反論です。

 池田氏は、「軍によるまたは軍中央の命令による慰安婦の暴力的な強制連行はなかったが、軍の監督責任、不作為責任はあるかもしれない」という立場なので、同じ3b説といっても、他の論者とは少しちがうかもしれませんが、2b説でないことは、反論の論理が、人身売買といっても「借金による「暗黙の強制」であって、それには軍は直接にはタッチしていない」になっていて、決して「それは一部のことであって、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」という、論理にはなっていないことから明らかです。

 同じような3b説者による議論は、ネット上でいくらでもひろうことはできますが、同工異曲なのでこの3例で十分でしょう。いずれも2b説ではありません。

  

 私としては、是非2b説に立つ3b説論者の実例をebizoh様にあげていただきたいところです。

次は、ebizoh様が「秦説こそが2b・3b混合説の元祖だと考えています」と評価される秦郁彦氏の議論を検討します。

返信2007/04/15 11:21:07

4nagaikazunagaikazu   秦氏の説も3b・2a説

次に、ebizoh様が「秦説こそが2b・3b混合説の元祖だと考えています」と評価される秦郁彦氏の議論を検討してみましょう。秦氏が3b説であることは、私もebizoh様も等しく認めていますので、この場合検討すべきは、はたして秦氏は2b説であるのか、すなわち「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」と主張しているのかどうか、にしぼられます。

 秦『慰安婦と戦場の性』の第12章で秦氏は、元慰安婦の証言から「官憲による組織的な「強制連行」はなかったと断定できる」としたうえで、それでは実際に「慰安婦はどのように集められたのか」との問いをたてています。彼は「私が信頼性が高いと判断してえらんだ」9つの証言・回想をもとに検討を加え、以下のような結論を下しました。

 「このような一連の証言から観察すると、慰安婦になった動機は各人各様、千差万別としか言いようがない。「だまし」と言っても、女たちではなく業者自身も乗せられたらしいケースが混じるとすれば、詮索は不毛の作業になりそうだ。」(秦前掲書、386頁)

 慰安婦になるに際して、「自由意志」なのか、「欺騙」「拐取」のような「強制」がはたらいたのか、千差万別であると言っていますが、それは裏を返して言えば、「欺騙」「拐取」があったことは否定できないと、秦氏も考えていることを意味します。実際に秦氏があげている9証言のうち、「就業詐欺」や「威し」によって慰安婦となったとみられるのが6例あります。もっとも、そのうちの1例は、朝鮮人慰安所経営者の、自分ところは前借金を親に渡して雇い入れているが、他の業者は「悪どい手を打っているらしい」「軍命と称したり部隊名をかたったりする女衒が暗躍しているようです」という話を、その業者から聞いたという日本人憲兵の回想です。

 あとの3例は、

1)従軍看護婦慰安婦の職務をはたした例で、言い出したのは婦長(ただしすでに一人の将校がこの婦長を独占していた)ですが、しかし実際には「応じなければ食糧が与えられない」状態で、従軍看護婦が「一日に一人ずつ兵を相手にすることを強制された」とあります。

2)ビルマに駐屯していたある部隊が村長を通じてビルマ人女性を慰安婦に募集しようとしていたのを、「半強制的になっては治安対策上まずいと判断し」た憲兵が連隊本部へ申し入れて中止させたという回想で、実際に募集はされませんでしたが、もしも実施されておれば、半強制的に行われたであろうと推測させる例です。

3)シンガポール陥落後に日本軍が慰安婦を募集したところ、それまで英軍兵士を相手に商売をしていた現地の売春婦が多数応募したという回想。

 唯一これだけが、自発的に慰安婦を志願してなった例です。しかし、秦氏は回想のこの部分のあとに続くエピソードを引用していません。そのエピソードというのは、自発的に慰安婦に志願した売春婦たちが、あまりに過酷な労働だったので、もうやめたいと言い出したにもかかわらず、ベッドに縛り付けてそのまま兵士の相手をさせたというものです。該当箇所を示します。

「ところが慰安所へ着いてみると、彼女らが想像もしていなかった激務が待ち受けていた。昨年の一二月初めに仏印を発ってより、三ヵ月近くも溜りに溜った日本軍の兵士が、一度にどっと押し寄せてきたからである。・・・(中略)・・・英軍時代には一晩に一人ぐらいを相手にして自分も楽しんでいたらしい女性たちは、すっかり予想が狂って悲鳴を上げてしまった。四、五人すますと、

 『もうだめです。体が続かない』

と前を押さえしゃがみ込んでしまった。それで係りの兵が『今日はこれまで』と仕切ろうとしたら、待っていた兵士たちが騒然と猛り立ち、殴り殺されそうな情勢になってしまった。恐れをなした係りの兵は、止むを得ず女性の手足を寝台に縛り付け、

 『さあどうぞ』

と戸を開けたという。」(総山孝雄『南海のあけぼの』)

 最初は自発的志願だとしても、これは売春の強制、性交の強要以外のなにものでもありません。極度の性的虐待といってもまちがいないでしょう。

 なお、総山孝雄氏は2003年に亡くなられましたが、東京医科歯科大学名誉教授、日本学士院会員で、近衛師団の通信隊員として南方に従軍した経験をもち、『インドネシアの独立と日本人の心』という著書をおもちです。

 というわけで、秦氏のあげた9例のほぼすべてが、じつは「強制売春」の例なのでして、とても「自由売春」などといえるものではありません。

 ところが、秦氏は「千差万別」「各人各様」と言いながらも、そのあとにこのような推測をくだします。

「おそらく、(略)大多数を占めるのは、前借金の名目で親に売られた娘だったかと思われるが、それを突きとめるのは至難だろう。」(386頁)

 秦氏が信頼できる証言としているもののうち、「前借金の名目で親に売られた娘」であると認定できるのは、先ほどあげた6例のうちの1例にすぎないのですが、しかし秦氏は、このケースを一般的なものだと結論しています。その結論そのものはまちがいではないでしょうが、その結論にいたる論証手続きには、いささか無理があると言わざるをえません。

 実証史家の手法としては、これは問題のある方法といわざるをえません。なぜなら、自分が根拠にあげている資料からは必ずしも直接には引き出せないことを結論しているからです。秦氏があげている9例でいちばん多いのは、就業詐欺慰安婦にさせられたケースです。

 しかし、慰安婦制度を「公娼制度の戦地版」とみなし、「強制連行はなかった」と断定する秦氏からすれば、「大多数を占めるのは、前借金の名目で親に売られた娘だった」との結論に達するのは、ある意味で必然だと言えましょう。

 さらにその結論を提示したあと、秦氏は、在日朝鮮人作家柳美里の、朝鮮人慰安婦のほとんどは、貧しさゆえに親によって身売りされた娘であるが、「様々な慰安婦のなかに強制連行されたと思い込むに足る状況証拠があったのだろう」という言葉を引用しています。

 つまりこの柳の言葉を引用することによって、その大多数が「前借金の名目で親に売られた娘」である朝鮮人慰安婦は、その事実に目をつむって、自らを強制連行されたと思いこんでいるのだ、というニュアンスを伝えようとしているわけです。

 もっともここで私が重視したいのは、秦氏の論証手続きではありません。秦氏が、その結論を採用することによって、じつは朝鮮人慰安婦のほとんどが、「身売り」によって慰安婦になったことを認めているというか認めざるをえなくなった事実のほうです。

 つまり、秦氏のいう「公娼制度の戦地版」である慰安婦制度は、公娼制度がそうであったように、「身売り」という事実上の人身売買によって支えられていたのであると、秦氏が主張している点こそが、ここでは何よりも重要なのです。

 さて、以上のことから、ebizoh様が「2b・3b説の元祖」と評価される秦氏も、じつは先にあげた下村氏、坂氏、池田氏とおなじ立場に立っていることがおわかりになったかと思います。秦氏もまた、決して「一部には、売春を強制された例もあったが、基本的には従軍慰安婦の実態は、自由売春であった」などと言っているのではありません。

 ebizoh様のお勧めにしたがって、3b説の論者の言とくにその元祖である秦氏の議論をを調べてみたわけですが、以上からいずれも2b・3b説ではないと結論できます。

私は秦説こそが2b・3b混合説の元祖だと考えています。

根拠は、秦郁彦慰安婦と戦場の性』

ebizoh様は上記のように言いますが、秦説は2b・3b説ではなくて、2a・3b説です。また、ebizoh様の、秦郁彦慰安婦と戦場の性』の解釈は正確ではないと、言わざるをえません。

返信2007/04/15 11:23:42

5nagaikazunagaikazu   公娼制度は事実上の強制売春か、否か

次ぎの問題にうつります。

 「従軍慰安婦の実態は強制売春か、自由売春か」という問題は、すでに決着がついている。なぜなら、3b説に立つ論者の多くが「従軍慰安婦制度は公娼制度の戦地版」であると解釈しているが、「公娼制度」は「事実上の強制売春」であるから、「従軍慰安婦制度は公娼制の戦地版である」という言説そのものに、「従軍慰安婦の実態は、強制売春である」という主張が内包されているからであると、私が指摘しました。

 それに対して、ebizoh様は、それは公娼制度についての誤解である。「公娼制度は事実上の強制売春である」というのは、一部の論者の主張にすぎない」として、その「公娼制度が事実上の強制売春ではない」理由を以下のように述べられました。

「行為当時の法解釈によれば、公娼制度の枠内であれば合法であり、強制売春ではありません。実態として、公娼制度の枠を越える搾取虐待などのケースがあった場合には強制売春にあたるので、このケースだけを事実上の強制売春と呼ぶのであれば、異論はありません。」

 これからわかるように、どうやら「公娼制度のもとで娼妓に売春をおこなわせることが、合法か否か」と「公娼制度のもとで娼妓に売春をおこなわせることは、強制売春か否か」とは、別の問題であることを、ebizoh様は理解されておられないようです。

 そこで、ebizoh様が信頼されている秦氏の見解をただしてみましょう。『慰安婦と戦場の性』では公娼制度について以下のように書かれています。

「しかし娼妓たちが自由を奪われた悲惨な「カゴの鳥」であるという実態は変わらず、救世軍などによる廃娼運動が盛り上がるのを見た内務省は、一九〇〇(明治三三)年に「娼妓取締規則」(省令四四号)を制定して、全国的た統一規準を作ろうと試みた。

 だが、この法令が一般に近代公娼制度を確立したと評されているように、必ずしも彼女たちの境遇が改善されたわけではなかった。たとえば、前借金が残っていたも廃業する自由は認められたが、楼主(抱え主)側の妨害や警察の非協力があり、実際には廃業しにくいうえに、新たな生業につくのも容易ではなかった。また廃業しても、前借金の契約自体は有効(一九〇二年の大審院判決)とされたので、借金返済できぬ女性は元の境遇に戻らざるをえなかった。」(28頁)

 「この時代(昭和初期の不景気時代)の日本では、公娼の多くは親が前借金という名目で娘を売春業者に売る、いわゆる「身売り」の犠牲者であり、その背景は広義の貧困であった。」(33頁)

「まさに「前借金の名の下に人身売買、奴隷制度、外出の自由、廃業の自由すらない二〇世紀最大の人道問題」(廓清会の内相あて陳情書)にちがいなかった。」(38頁)

 ebizoh様の指摘とは逆に、秦氏も、公娼制度は「事実上の強制売春」と理解されているようです。

返信2007/04/15 11:25:29

6nagaikazunagaikazu   従軍慰安婦は自由売春制度ではありえない。

 たしかに、数ある慰安婦の中には、その自由意志によって慰安婦となった人もいたでしょう。

 しかし、そのような例が存在しているからといって、「従軍慰安婦の実態は自由売春だ」とはいえないのです。ebizoh様もみとめるように、そして多くの3b論者の方々も認めているように、逆にその意志に反して慰安婦となることを強制された人も現実にはいたからです。

 

 こういうと、「一部の自由意志による慰安婦の存在をもって、従軍慰安婦の実態は自由売春といえないのであれば、同様の論理でももって、一部の売春を強制された慰安婦の存在をもって強制売春とはいえないはずだ」と、切り返えされるにちがいないですが、この場合は、両者の比率が問題となるでしょう。どちらが多数をしめていたかです。

 もとより、正確な数字を割り出すことなど不可能ですが、残されている証言や回想から判断して、強制売春のケースが基本的であったことはまちがいないでしょう。3b説をとる論者の多くが2a説であることは、その判断が妥当であることを示しています。

 それよりも、何よりも、システムとしての慰安婦制度が「自由売春」と言いうるためには、「強制売春」を禁止する風俗行政上の強い規制がなければならないのです。そうでなければ、「自由売春」制度とは言えません。

 仮に現在の日本で、「自由売春」制度を実施しようとすれば、法的には、売春防止法の第1条および第4章を改正し、第2章の第3条、第5条あるいは第6条および第3章は廃止しなければいけませんが、しかし第2章の第7条から第13条までは残さなければいけないし、さらに売春の強制やそれを目的とする自由の拘束を厳に禁止する条項を設け、その罰則を強化しなければいけません。

 たんに売防法を廃止するだけでは、「自由売春」制度にはなりません。売防法を強制売春禁止・処罰法に変化させてはじめて、「自由売春」制度がなりたつのです。もちろん最近改正された刑法における人身売買・人身取引罪は必須です。

 たんなる売春の公認だけでは、「自由売春」制度にはなりません。売春を正業と認め、強制売春禁止法、人身売買・人身取引禁止法、強力な売春婦(sex worker)保護法と保護のための行政措置がとられなければ、たんなる売春の公認は、ほぼ必然的に強制売春の横行にいきつきます。それが人類の歴史の現実です。

 その点で、ebizohさんの「自由売春」を「公認された合法な売春」と同義のものとする理解は、根本的な誤解といってよいでしょう。

 さて慰安婦に関していえば、政府が大々的に行った調査の結果わかったことは、「自由売春」を制度的に保証するであろうはずの、慰安所での強制売春禁止規則や慰安婦保護規則なるものがどこにもみつからなかったという事実です。この一事をもって、従軍慰安婦の実態は「自由売春」制度とはいえないと結論してよいのです。

 この結論をくつがえすには、慰安所での強制売春禁止規則や慰安婦保護規則がなくても、事実において「自由売春」であった。すなわちごく少数の例外を除いて、慰安婦はその自由意志によって売春に従事し、かつその稼業を行うに際して、いかなる強制も拘束もうけていなかったこと、そして少数の例外的な売春強制に対しては、厳重な処分と慰安婦の解放がおこなわれたことを、証明しなければなりません。はたして、ebizoh様にそれができますか。

返信2007/04/14 21:40:15

7noharranoharra   永井論文「日本軍の慰安所政策について」などを読み返す

みなさま ごぶさたしております。

2018.9.25に small bear @Pooh_advancedという、知識があるのかないのかよく分からないがやたら発言量が多いネトウヨが、次のように書きました。

>>例の、軍の慰安婦募集の初期のころ、『軍の慰安婦なんてあるわけないから詐欺』という判断をして、全国の警察が、詐欺や略取誘拐の疑いで逮捕してる事案がありますね。

これ、結局は、軍の依頼であり、警察も噛んで合法性を確かめた上で 渡航させてたから、無罪放免になってます。<<

わたしは思わず、次のように書いた。

>>「「慰安婦」制度なんていうわけの分からないものを日本国家が遂行しようとして、婦女を連れ去ろうと不良っぽい業者が動いている」とは、夢にも思わず今までの常識で逮捕したら、軍からおこられて、地方の警察官は??と思った、わけですね。

戦後になってやはり、「地方の警察官は??と思った」感覚で正しかったんだとなりました。

それを70年経って、またわけの分からない解釈をもってこようとしている、うんと若い人がいるのか。恥ずかしい奴だ!

https://twitter.com/noharra/status/1044484000436314112<<

それに対し、mituzo@M... というひとが、こう突っ込んできました。

>>「軍からおこられて、地方の警察官は??と思った」史料ちょっと貼ってみ<<

(「史料」にこだわるところがネトウヨらしい。)

そこで、

A・永井論文「日本軍の慰安所政策について」 (永井和氏には、この掲示板などで大変お世話になった。感謝申し上げる。ここでは敬称略とさせていただく。)

http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html#SEC3

B・陸支密第745号「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」 (1938年3月4日付-以後副官通牒と略す)

http://ianhu.g.hatena.ne.jp/keyword/%E9%99%B8%E6%94%AF%E5%AF%86%E7%AC%AC%E4%B8%83%E5%9B%9B%E4%BA%94%E5%8F%B7

C・和歌山県知事発内務省警保局長宛「時局利用婦女誘拐被疑事件ニ関スル件」(1938年2月7日付)

http://www.awf.or.jp/pdf/0051_1.pdf#63 〜82 。

論文及び二つの史料をいそいで、ざっと読んでみました。

というわけで、以下その結果。

B・陸支密第七四五号 編集 副官ヨリ北支方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒案(昭和十三年三月四日) をまず読もう。

http://ianhu.g.hatena.ne.jp/keyword/%E9%99%B8%E6%94%AF%E5%AF%86%E7%AC%AC%E4%B8%83%E5%9B%9B%E4%BA%94%E5%8F%B7

こちらに丁寧な資料と解説がある。昭和十三年三月:慰安婦問題では最初期、に注意する。

現代語訳を引用しておく。「日中戦争地(=中国)に慰安所設置をするため、内地(=日本国内)においてその従業婦を募集する際に、(1) ことさらに軍部了解などの名目を利用して、軍の威信を傷つけ、また一般人の誤解を招く恐れがある者。(2)あるいは従軍記者、慰問者などを通して軍部の統制が及ばない状況で募集し、社会問題を引き起こす恐れがある者。(3)あるいは従業婦募集に不適切な者がその業務に当ったために、誘拐まがいの募集手段を用い、警察当局に検挙され取調べをうける者も現れるなど、注意を要する者が少なくなかったことについて、今後、(i)これら(=軍慰安所従業婦)の募集などに当たっては派遣軍が統制すること。(ii)これ(=直接的な募集行為)を任せる人物の選定を手落ちがないよう適切に行うこと。(iii)その(軍慰安所従業婦の募集)の実施に当たっては関係地方の憲兵及び警察当局との連係を密接にすること。以上、日本軍の威信保持、並びに社会問題上、手落ちのないように配慮するよう依命通達する)」

1,軍が慰安婦を募集した。2,募集に当たってかなりグレーな勢力が関与していた。3,「日本軍の威信保持」のためによろしくたのむ。つまり警察に片目をつぶれ、と頼んでいる、ということですね。

ここからも、4,「慰安所の主体は軍ではなく業者だ」というのは妄説であることは分かります。

4−2、「強制連行を業者がすることを禁じた文書」とする自由主義史観派の主張も誤り と分かります。

さて、次に、永井論文による新資料であるC・和歌山県知事発内務省警保局長宛「時局利用婦女誘拐被疑事件ニ関スル件」を読みます。

「軍の依頼を受けた業者による慰安婦の募集活動に疑念を発した地方警察に対して、慰安所開設は国家の方針であるとの内務省の意向を徹底し、警察の意思統一をはかることを目的と出されたものであり、慰安婦の募集と渡航を合法化すると同時に、軍と慰安所の関係を隠蔽化するべく、募集行為を規制するよう指示した文書にほかならぬ、というのが私の解釈である。」というのが永井の結論です。

面白いところは、次のような和歌山県での事件の概要です。

「1938年1月6日和歌山県田辺警察署は、管下の飲食店街を徘徊する挙動不審の男性三名に、婦女誘拐の容疑ありとして任意同行を求めた。

二名は申し立てる。「疑わしい者ではない。軍部よりの命令にて上海皇軍慰安所に送る酌婦募集に来たるものにして、三千名の要求に対し、七十名は1938年1月3日より陸軍御用船にて長崎港より憲兵護衛の上送致済なりと称し」立出たり。

探すと「某料理店に登楼し酌婦を呼び酌しせしめつつ上海行きを薦めつつあり」

「交渉方法に付き、無知なる婦女子に対し金儲け良き点、軍隊のみを相手に慰問し食料は軍より支給する等勧誘の容疑ありたる」をもって被疑を同行取締を開始したり。

(何をやってるんだ?と警官はびっくりした、当時の警官の常識においては完全に黒に近いグレーと感じたわけです。)

身柄は釈放。

さっそく、問い合わせしてみたところ、意外にも長崎県外事警察課長から、貸席業佐賀外二名の婦女誘拐の嫌疑取り調べに対し、皇軍将兵慰安婦女の渡港(この漢字が正確に読めない http://www.awf.or.jp/pdf/0051_1.pdf#71)を許可している旨回答があった。

ということですね。

「ただ、警察から誘拐行為と目されることになったのは、軍がそのような施設をつくり、業者に依頼して女性を募集しているという話そのものが、ありうべからざること、にわかには信じがたい、荒唐無稽なことだったからに、ほかならない。」警官がびっくりしたのかどうか、については永井もこう書いています。

「和歌山田辺の事件では大阪九条警察署長が「内務省ヨリ非公式ナガラ當府警察部長ヘノ依頼」があったと回答したが、おそらく、この内務省メモのようなはたらきかけが、大阪府警察部長に対してもなされたのであろう。」と永井は言っている。正面から「合法」なら「内務省メモのようなはたらきかけ」など不要ですよね。

ところで、bear氏が言う「『軍の慰安婦なんてあるわけないから詐欺』という判断をして、全国の警察が、詐欺や略取誘拐の疑いで逮捕してる事案がありますね。」

のひとつが、和歌山の例。それに対し「これ、結局は、軍の依頼であり、警察も噛んで合法性を確かめた上で渡航させてたから、無罪放免になってます。」と、その時の「無罪」を、そのまま現在に通用させようとする、無知極まりない感受性をbear氏は誇示している。

しかし、永井論文によれば「一部の地方を除き、軍の慰安所設置について何も情報を知らされておらず、慰安所の設置はにわかに信じがたい話であった。国家機関である軍がそのような公序良俗に反する事業をあえてするなどとは、予想だにしなかった。

かりに軍慰安所の存在がやむを得ないものだとしても、そのことを明らかにして公然と慰安婦の募集を行うのは、皇軍の威信を傷つけ、一般民心とくに兵士の留守家庭に非常な悪影響を与えるおそれがあるので、厳重取締の必要があると考えていた。そして、実際にそのような募集行為を行わないよう業者を指導し、管下の警察署に厳重取締の指令を下した。 」例は多い。

群馬県警察は「本件ハ果タシテ軍ノ依頼アルヤ否ヤ不明且ツ公秩良俗ニ反スルガ如キ事業ヲ公々然ト吹聴スルガ如キハ皇軍ノ威信ヲ失墜スルモ甚シキモノト認メ厳重取締方所轄前橋警察署長ニ対シ指揮致置候」と命令している。 http://www.awf.or.jp/pdf/0051_1.pdf#49

宮城県名取郡在住の周旋業者宛に、福島県平市の同業者から「上海派遣軍内陸軍慰安所ニ於ル酌婦トシテ年齢二十歳以上三十五歳迄ノ女子ヲ前借金六百円ニテ約三十名位ノ周旋方」を依頼する葉書が届いたというもので、警察は周旋業者の意向を内偵し、本人に周旋の意志のないのを確認させている。http://www.awf.or.jp/pdf/0051_1.pdf#90

支那各地ニ於ケル治安ノ恢復ト共ニ同地ニ於ケル企業者簇出シ之ニ伴ヒ芸妓給仕婦等ノ進出亦夥シク中ニハ軍当局ト連絡アルカ如キ言辞ヲ弄シ之等渡航婦女子ノ募集ヲ為スモノ等漸増ノ傾向ニ有之候処軍ノ威信ニ関スル言辞ヲ弄スル募集者ニ就テハ絶対之ヲ禁止シ又醜業ニ従事スルノ目的ヲ以テ渡航セントスルモノニ対シテハ身許証明書ヲ発給セザルコトニ取扱相成度

http://www.awf.or.jp/pdf/0051_1.pdf#62

「軍の慰安所政策(国家機関が性欲処理施設を設置・運営し、そこで働く女性を募集する)は、当時の社会通念からいちじるしくかけ離れたものであった」は、明らかである。ところが「公娼は戦前は合法」のひとことで、そのような常識を一切無視してしまう日本人が最近極端に増えた。その人が恥知らずなのは私の力の及ぶところではないが、1938年当時の全国の警察官などの過半はけっしてそうした感受性は持っていなかったよ!と言っておきたいですね。

http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html :永井論文urlをもう一度。ちょっとしんどいが、ぜひ読んでください。

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長くなりすぎたけど、ぼちぼちtwitterに貼っていこう。

https://twitter.com/noharra/status/1044592403884126208 以下に。

返信2018/09/25 23:32:36